ギルバード・アスターの王立魔法中学受験

安座ぺん

オリバー・スミスの受験体験記

「魔法は良心に依存する」 オリバー・スミス


 王立魔法中学校を目指しているであろうきみに向けて、この体験記を書いてみる。

 誰だよ、って思われるだろうから、自己紹介。僕は、オリバー・スミス。王立中の一年生だ。

 魔法の先生をしている祖父に、小さい頃から教わっているから、魔法はちょっと得意だ。王立中を目指した理由は、腕のいい治癒師になるための勉強をしたかったから。


 きみのために、いい勉強法や効率のいい暗記術を書きたいところだけど、それは一緒に勉強してきた、学友たちの方がずっとよく分かっている。だからそういうのは、彼らに任せて、僕は魔法を使う上での心持ちとか、きみが辛くなったときに役にたつ(たったらいいなと思う)助言を書く。


 さて、王立中の魔法実技試験の題目は『ホットチョコレートを作ろう』『美味しいコーヒーを淹れよう』『ガーデニングをしよう』の三つだ。どれか一つがランダムで出題される。全ての工程を魔法でおこない、完遂させなければいけない。

 それぞれコツは違うが、細かく書くには紙面が足りない。

 共通して言えるのは、とても難しいということだ。何度挑戦してもうまくいかず、僕はその度、やめたくなるくらいだった。


 そして、もう一つの共通点は、どれも、大切な人を思ってする行動である、ということ。その大切な人というのは自分自身でももちろん構わない。

僕は王立中を受験するために、題目を練習する中で、魔法を使う上で大切なのは、誰かのために役にたつことをしたい、という気持ちだと思った。


 火を出す時は、冬の夜に寒さに震える子猫を温めたいと思うこと。

 水を出す時は、手が泥だらけになって困っている友人を想像すること。


 実際は、こんなのおまじない程度だ。このステップを踏まずとも魔法は使える。けれど、強い祈りは心が折れそうな時には、やっぱり役に立つ気がする。


 きみがどうしても魔法をうまく使いこなせない時は、大切な人を想って魔法を使ってみる、ということを試してみてほしい。それもまた、難しかったら、そう思えるような心を持ちたいと、神様に祈ってみてほしい。


 それでも、ダメなら……その時は、僕も一緒に考えたいと思う。

 もし夢を叶えていたら、僕は治癒師になっているはずだから、その時は診療所にお越しいただく(そうなってたらいいな)か、僕の育ったスミス学舎でもいい。呼んでくれたら駆けつける。

 頼りないかもしれないけれど、きみの役に立ちたいという気持ちを持ち続けられるよう努力して、いつでも待っている。



スミス学舎 発行『王立魔法中学受験 体験記』より一部抜粋

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