死望者
R62
第1話 寓話
あるところに一匹の翅のない蜻蛉がいました。
翅なし蜻蛉は仲間の蜻蛉とともに、最後の一日を存分に楽しむために、どんちゃん騒ぎをしていました。
おれは華麗に散ってやるぜ。
仲間の蜻蛉は言いました。今日は最後だ、唄おう。と言うものもいれば、われわれは今日だけを楽しめればそれでいいんだ、なにも怖くない、それがわたしたちなのだ、と諭すものもいました。翅なし蜻蛉は飛びあっている仲間たちを見ながら、心から楽しめないでいました。飛べないのに死ぬなんていやだ、命が惜しいと考えていました。
一日がすぎさり、仲間の蜻蛉たちが次々と死んでいくのを翅なし蜻蛉は見ていました。自分もこのように死んでしまうのかと考え、怖くなっていました。
そして最後の仲間が死に際、なんにも怖くない、ごく自然なことなんだ、おれはなにも怖くない、その蜻蛉はついに死んでしまいました。
翅なしかげろうは一人とりのこされました。孤独になってしまいました。淋しい、どうせぼくも死ぬんだから気にしなくていいのかもなあ、とのんきなことを考えていました。
ところが、二日たっても、一週間たっても、一か月たっても生きていました。
一日で命ならの散る美しさ、ぼくは翅がなくて醜いから死なないんだと考えるようになりました。死ぬのも怖かったけど、ひとりきりで、淋しくて、淋しくて、もっと怖くなりました。
とある日、蜻蛉は橋の上にいました。近くには桜の木が雄々しく立っていました。無数の仲間の死骸のうえ、桜の木が立っていました。空を見ていると、とつぜん桜の花びらがまってきたのです。
そんな季節だったかな、もうよくわからないなあと思いながら、その桜を見ていました。そこにはあこがれがありました。空と桜。蜻蛉は桜に手をのばし橋から飛びました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます