第42話

――――――――――――――――――――…



夜が明けると、征十郎の周りに不思議なことが起こっていた。




『なんで!?


 なんで覚えてないの??』




「アリス?


 そのような者は我々の中におりませんが


 ・・・スズキ、知っているか?」




「いえ、存じません。


 全使用人の名前は把握しておりますが


 その名前は初耳です」





アリスを知っている者がどこにも居なくなっていた。


師団長のサイトウも、アリスの居場所を征十郎に教えてくれたスズキも、誰も。


初めから居なかったかのように。






「あっ! 征十郎様!


 どちらへ!?」






征十郎はアリスの家に向かって一目散に

駆け出した。


制止しようとする使用人たちの隙間を

縫って、かわし、振り切って、

ひたすら走り続けた。




―――――…




アリスの家はもぬけの殻だった。



何人かの使用人が新しい生活用品を運び入れようとしていたのを見て、征十郎は…




『ここはアリスの家だから!


 出て行って!』




「アリス…? ですか??


 ここは、新しく入るオガワさんの

 荷物を…」




『他の空いてるところに変えて!


 この家は使用禁止!


 そうみんなに伝えて!』





アリスと過ごした日々、

その想い出がたくさん詰まった家を

他の誰かに汚されたくない。


征十郎はそう思い、釈然としない状況のなかアリスが住んでいた家を立入禁止とするように指示をした。





全く持って理解できない征十郎。



何に悩んでいるのかわからない使用人たち。





「ハァ… ハァ…!


 こちらでしたか、征十郎様


 しかし御速い!


 よくぞ、これほど迄の速度を

 身に着けられたもので…!」




息を切らしてやって来たサイトウが

そう言うと…




『サイトウ、


 パパは、夜には居る?』




「ハイ、屋敷でディナーをとられる

 ご予定となっております」



『わかった。


 他の人は外すように伝えて?


 聞きたいことがあるから。』




「かしこまりました。


 そのようにお伝えさせていただきます」





父親に聞く。選択肢はそれしかなかった。



喜怒哀楽という感情が曖昧なまま育った征十郎だったが、喜びや楽しみという感情の他、

燃え上がるような想いが征十郎のなかで、

芽生えようとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る