第48話 【閑話】 残酷な戦場
正直言えば、魔物と戦うのは面白かった。
女神様から貰ったジョブやスキルのおかげで魔物相手には無双が出来ました。
ゴブリンが何十居ようが、まるでオモチャの様に倒せました。
自分より大柄なオークが出てこようが恐ろしくも無く無双しました。
オークの死体の山を積み、女の子を助けた時には同級生の男子は死ぬ程、モテていました。
そしてオーガですら、軽く倒し……私達はまるで物語の主人公。
そう思っていました。
元々は文学少女だった私は、体が動かす事は嫌いだった。
だけど、この世界では誰もがまるで超人の様に戦えました。
皆から尊敬され、誰もが敬う存在。
それが私達『異世界の戦士』なのです。
『女神様からの使い』とも言われ誰もがチヤホヤします。
簡単に倒せる魔物を倒すだけで英雄扱い。
地味子と呼ばれた私が、まるで王子様みたいな男の子に好意を寄せられる。
王子様? 当たり前だよ。
だって本物の貴族の子息なんだから……本物なんだもの。
小説やマンガの中にしかい居ない様な美少年。
それが、皆私に好意を寄せている……もう私には本は必要ない。
『本物が手に入るんだから』
弱い存在を殺すだけで、これが手に入るなら……私達は皆、そう思い殺す事に抵抗がが無くなりました。
ゴブリンだってオークだって生きているのに。
誰もが今の待遇に慣れて、殺すのに躊躇しなくなりました。
オーガも倒せ、竜みたいな魔物すら倒せた私達は、この先の本当の戦いの事を、まだ知らな過ぎました。
魔物では無く魔族という存在との戦いを……
魔族という物は魔物とは全然違う。
魔族が恐ろしく強いと言う事を、この時には誰もが知らなかったのです。
◆◆◆
オーガや小さな竜種を討伐出来るようになった私達はいよいよ訓練が終わり、魔族との戦いに戦地に行く事になりました。
訓練は最初のうちはきつかったけど、ジョブやスキルのせいかすぐに誰もが騎士以上の体力や技術を身に着け、1人でも魔物相手に無双できる位になりました。
だから、魔族相手にも無双できる……誰もがそう思っていたのです。
ですが……
そこで待っていたのは……
「何だよ、これ聞いて無いよ……」
「嫌ぁぁぁぁーー」
「こんなのと戦うなんて、冗談でしょう」
青ざめるしかありませんでした。
「異世界人だぁーーー! 全員殺せぇぇぇーーー」
「異世界人を殺すのは魔族の誉! たとえこの身が滅びようと生きている限り戦いますわぁぁぁーー」
「死んでも殺す……俺がこの場で死のうが3人は道連れにしてやる」
人類への憎悪の塊。
死ぬ気で立ち向かってくる存在。
それが魔族でした。
しかも、降伏は一切許さず……負ければ殺される。
逃げても何処までも追いかけてくる。
何より恐ろしいのは『私達を殺せるなら自分は死んでも良い』そう思っている事でした。
私達は『殺す覚悟』はありましたが『殺されても良い』なんて覚悟はありませんでした。
何人殺しても、その屍を超えて殺しにくる存在。
その恐ろしさを目にした時……初めて此処が、ライトノベルや空想の世界じゃない事を思い知りました……
ジョブの中で力が弱い者が次々戦場で命を落としていきます。
そして……強い者も油断すると死んでいく……この世の地獄です。
私のジョブは上級ヒーラーだから、余り戦いに出ないですんでいる。
だけど……
「た、助けて……」
「助けるよ……だけど……ごめんね、足は諦めて」
魔法だって万能じゃない。
治せない怪我も多いし……中には
「……」
「あの……嘘、死んでいるわ」
私の所にたどり着く前に死体になっている者も居ました。
幾つかのチームに分かれて活動しているけど、私のチームだけでもう5人もの同級生が死んでいます……
恐らくもう生きている同級生は1桁~10数人のような気がします。
此処は本当の地獄だった。
こんな所に召喚した、この国の人間が憎い。
仲の良かった優子ちゃんも十和子ちゃんも死んじゃった。
多分、私が死ぬのもそう遠くはないのかも知れません。
あの時、ジョブとスキルを譲ってくれた用務員のおじさん。
こんな地獄の様な世界に、何も持たずに来たんだから、きっと死んじゃったんだろうな……
私はそれでもまだ生きている。
ううん、生き残っています。
「駄目だ、前線が崩れたぁぁぁぁーーーっ」
「一気にここに流れてくるぞぉぉぉーー」
上級ヒーラーの私は戦闘能力は他の仲間より一段低い。
逃げるしかありません……
「見ぃ~つけた! 異世界人!」
「俺の獲物だぁぁぁぁーーー」
「黒髪黒目……殺す」
三人の魔族に囲まれてしまいました。
ふぅ……もう終わりです。
私は静かに目を瞑むりました。
その途端......頭と胸に痛みを感じ......目の前がだんだんと暗くなっていきました。
ようやく、この地獄が終わるのです。
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