第39話 王SIDE 信仰の自由は無い
「思った程、異世界人が強くならない……だと?」
儂事、この国の王ドラド六世は娘、マリン王女からの報告を受けていた。
「はい……成長が余り思わしくありません」
異世界人は本来ならこの世界の人間なんて比べられない程強くなる。
優秀な者は1週間で騎士を軽々倒す程に成長する。
「成長が遅いとはいえ異世界人にしてはという事だろう? 余り気にしないで良いのではないか?」
「それが、もう1か月になるのですが、誰一人騎士より強くなっておりません」
恵まれたジョブにスキルを女神イシュタス様から貰っている。
それは鑑定で解っておる。
それで強くならない、その意味が解らない。
「それで、何か理由は解らぬのか?」
「それが、聞き取り調査をした所……司祭曰く信仰の力では無いかという話しが出ています」
まさか、信仰心が無い……そう言う事か?
「信仰心が無い……じゃと?」
「はい」
マリンから聞いた話だと……此処にいる異世界人は「女神イシュタス様」を信仰していないとの事じゃった。
何の冗談かと思い異世界人を呼んで聞き取り調査をしたとの事じゃ。
「うちですか? うちは仏教と言って仏様を崇めていますね......」
「うちは無宗教に近いけど......正月にお参りに行くから神道かな」
「私はキリスト教ですね」
イシュタス様から恵まれた、ジョブやスキルを貰っているくせに他の神を信仰している状態だったそうじゃ。
イシュタス様についてどう思うか聴いてみたら……
「確かに美人だけど......私の方が綺麗よ」
「ああいう美人と一夜を共に出来たら、最高ですね」
「彼女にしてみたいですね」
女神を愚弄しているのか?
誰一人女神イシュタス様を敬っていない事が解った。
それ処か他の神を信仰している事が良く解ったそうだ。
こんなに女神を信仰していない人間が何で女神の加護が貰えているのか解らない。
「何じゃと! それは誠か!」
「ハイ、私も出向きまして、この耳で聞いた事に御座います」
「何たることだ、女神の使徒として降臨された方が、他の神を信仰しているとは......それが成長しない原因なのか?」
「お父様......あくまで仮説ですが、それに他の神が管理している世界だと……」
帰還は無理、そういう事じゃな。
「マリンよ! 不本意ながら約束は反故にするしか無い、違う世界であってもイシュタス様を信仰している世界なら、お伺いを立てて送還も可能かもしれぬが、他の神の世界では帰してあげる事は叶わぬな、送還みたいな大がかり魔法はイシュタス様のお力が無ければ出来ぬ」
今迄、送還転移が出来なかった訳だ。
「お父様......ですが、送還の約束もしております」
これは心の問題ではない。
物理的に出来ない。
「誰か、宮廷魔術師を呼べ!」
暫くすると宮廷魔術師のドーベルが来た。
「宮廷魔術師師長ドーベルよ...どうじゃ?」
儂は此処までの経緯を話した。
「無理でございます......イシュタス様の恩恵を預かった者はイシュタス様の世界から出られなくなるのが道理でございます! また、信仰無くして、その力は充分に発揮など出来ません。」
女神の加護が、ジョブやスキル。
他の神を信仰していれば、充分に力など発揮できない。
しかし、こんな単純な事、何ぜ今迄解らなかったのじゃ。
「だろうな......まぁ無理な物は無理じゃ、第一あれ程の加護の恩恵に預かりながら他の神を信仰しているなど信じられぬ、他の神を信仰せず、女神イシュタス様を信仰するように、明日にでも再び話すとしよう」
◆◆◆
次の日の朝早く、召喚された者達を起こし大広間に集めた。
「こんな朝早くから、どうかされたのですか?」
「異世界の戦士たち......どうやら約束が守れそうも無いので説明をしようと集まって貰ったのじゃ」
「約束が守れない? それはどういう事でしょうか?」
周りがざわつき始めた。
「まず、貴方達はもうこの世界から帰る事は出来ぬ」
「約束を反故にするのですか?」
異世界人の一人緑川が前に出て抗議してきた。
「反故も何も絶対に出来ぬから伝えたのじゃ。そなた達はイシュタス様の治める世界から来た者ではないと言う事が解った。 この世界の大きな魔法や奇跡はイシュタス様の力を無くしては発動できぬ。ゆえにその世界に帰る魔法は恐らく出来ない」
「ですが、こうして来られたのですから、帰る事も出来る筈です」
「無理だ! 他の神が治める世界など儂達は知らない。そしてイシュタス様の力は恐らくその世界には及ばない」
「そんな、元の世界に帰れないの......」
「お父さんやお母さんに会えない」
「嘘だろう!俺の彼女は此処には居ないんだぞ!」
「弟に会えなくなるなんて」
「そんな、我々は女神から、その様な事は聞いていない!」
「こればかりはこの世界の根源に関わる事、すまないとしか言いようがない」
「その様な話は今迄言わなかったではないですか? 何故、今になってその様な事を言い出すのですか?」
「今迄の召喚者の全ては女神を信じ、女神に与えられた恩恵に感謝していた物ばかりじゃった。 もしかしたら、そうじゃない存在も居たのかも知れぬ……だが、誰もが女神の名の元に戦った。信仰無くして力を振るう事は難しい。 それに、もしこの世界で死んだあとの世界の管理も女神イシュタス様の世界です……何が言いたいのかと言えばのう、この世界は人類に関していれば神は女神イシュタス様しかおらず、死後の世界も女神イシュタス様の世界……考えのすり合わせが必要じゃな」
「それでは我々は死んだ後もこの世界に魂まで縛られる、そう言う事ですか!」
「そうなるであろうな」
「そんな事って無い」
「そんな話は聞いて無いわ」
「嘘でしょう......死んでも家族に会えないなんて」
「女神もこの世界も我々を騙したのか...」
「我々は好きでこの世界に来た訳ではない! どうにかなりませんか?」
「そうかも知れぬ......だが、充分な報酬を既に女神イシュタス様から幾つか貰っているではないか? 強力なジョブにスキルだ、誰もが羨む成功への切符だ!違うか? 儂らもこの世界で最高の物を持ってもてなしてきた」
「それはそうかも知れませんが」
「お前達の世界で、貴族になれる程の才能を持っている者は居るのか? 恐らく、此処に居る者はそうなれる可能性のあるジョブやスキルをイシュタス様から貰っている。 それに既に貴族並の待遇をしておる」
「ですが、それでも......」
「なら、もう儂は何も言わぬ......気に入らない者は出て行くが良い、先に出て行った者と同じに身分証明書お金は渡そう......明日までに今迄の信仰を捨て、女神イシュタス様を信仰するか去るか決めるが良い......出て行く者は別に止めはせぬ」
「そんな無責任ではないですか?」
「どうとろうと構わぬ......だが、これは儂にもどうする事も出来ない。 自由にして構わぬから好きにするが良い」
女神を信仰しなければジョブやスキルの恩恵を預かれぬ。
出来る事なら、信仰を捨て女神を信仰してくれる事を儂は望む。
しかし、これは盲点であった......今までの異世界人でも、信仰が無い者が多く居たのかも知れぬ。
まさか、女神の使徒たる異世界人が女神を信仰してないなんて思わなかった。
今後は聞くようにする必要があるな。
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