【カクヨム10参加作品】異世界を下から見て生きる ~元中年オヤジの活躍を全くしない異世界ライフ~
石のやっさん
第1話 ジョブとスキルが足りない
生徒たちはいつもの様に授業を受けていた。
俺はそれを見ながら廊下でモップをかけていた。
どこにでもある何時もの光景。
生徒は、普通に授業を静かに受けている。
やがて、授業が終わり昼休みがきた。
仲の良い者同士が集まって昼飯を食い、その後は仲の良い者同士で集まって楽しそうに話をしている。
その光景を見ながら天気が良いので俺は裏庭のベンチに座り弁当を食べている。
此処、青誠(せいせい)学園で俺は、用務員をしている。
この学校は進学校ではない。かと言って不良校でもない。
何処にでもある普通の高校。
そのせいか、用務員の俺にも厳しくない。
「用務員さんが寝ているぜ、静かにしてやろうよ」
「用務員さん、良い齢だもんね...あっちにいこうよ」
俺の睡眠を妨げないようにしてくれているような声が聞こえてくる。
ついベンチでウトウトしてしまったようだ。
気を使わせてしまったようで、なんだか、悪いな……
自分ではそんな齢だと思っていないが、高校生にとっては40代はもう齢なんだろうな。
まぁ、確かに高校生の子が居ても可笑しくない歳ではあるけど。
◆◆◆
その日もいつものように裏庭のベンチで弁当を食べウトウトしていた。
今日の仕事は、体育館の倉庫整理だった。
大きな物が多くて疲れた。
そのせいで、ついいつも以上に熟睡していたようだ。
「用務員さん、起きて」
生徒に起こされた。
俺は横になっていた。
ベンチから落ちてもそのまま眠っていたようだ。
良く起きなかったな俺。
「用務員さん、早く女神様の所にいった方が良いよ」
「えっ女神様? なんだ、それ……」
揶揄われたのかな?
「用務員さんが寝ている間に異世界から召喚で呼ばれたんだよ。そして今は異世界に行く前に女神様が異世界で生きる為のジョブとスキルをくれるって言うんで並んでいるんです」
「冗談」
そう言いかかったが……周りを見渡すと、白くて何もない空間のようだ。
嘘ではないな。
俺を騙す為にだけにこんな大掛かりな事はしないだろう。
「それじゃ、先に行きます、用務員さんもジョブとスキルを貰いに早く並んだ方が良いよ。 それじゃぁね」
そういうと彼らは体が消えていった。
どうやら、ジョブとスキルを貰った者から先に転移していくみたいだ。
俺は、金髪の豊満な美しい女性のいる列に並んだ。
多分、彼女がきっと女神だ。
次々にジョブとスキルを貰っていく中、いよいよ最後に並んでいた俺の番がきた。
すると……後ろからもう一人女生徒が遅れて並んできた。
俺が最後じゃ無かったのか?
なぜだか、俺と女生徒を見て女神様の顔が青くなった気がした。
「あれっ……おかしいわ……残りのジョブとスキルが1人分しか無いわ……どうしてかしら」
1人分しかない。
俺の後ろの女生徒が青ざめている。
「あの、女神さま......もしかして、もう1人分しかジョブやスキルが無いのですか?」
「ええっ、そうなのよ……困ったわ」
「それなら……俺は、何も要らないから元の世界に返してくれませんか」
俺は大人だ。
泣きそうな顔をしている子を差し置いて自分が欲しいとは言えない。
異世界にいけないのは残念だけど……仕方が無い。
「ごめんなさい......それは出来ないの......」
「何故でしょうか?」
「異世界ルミナスで魔王が現れ困っているのよ。そしてその国の王族が勇者召喚をして君たちを呼ぼうとしたのよ......なんとなく解るかな?」
「小説とかで読んだ話に、似たのがあった気がします」
「うん、同じような小説が最近はあるよね! まさにそれ! それで私は女神イシュタスって言うんだけど、そのまま行ってもただ死ぬだけだから、向こうで戦ったり暮らせるようにジョブとスキルをあげていたのよ」
「そうですか」
「だから、貴方達にも彼方で活躍出来るように、ジョブとスキルをあげるつもりだったんだけど……もう一人分しか無いのよ」
「そんな、それじゃ私は……何も貰えずに異世界に行く事になるんですか?」
「ええっ……貴方の分がありません」
俺の方が年上だし、男だ。
此処は俺が譲るべきだ。
「それじゃ……俺は要りませんのでこの子にあげて下さい」
「えーと要らないって言ったのよね? 本当に良いの?」
「はい……無い物は仕方がないですから……」
「危ない世界なのよ? 本当に良いの?」
目の前の今にも泣きそうな女生徒を見棄てるのは大人として出来ない。
仕方ない……俺は大人で男だからな。
「俺は、ジョブもスキルも貰わないで良いから、なんとか、元の世界に戻す事は出来ませんか......」
「この魔法はクラス全員に掛かっているから、私でも無理だわ......」
「そうですか! それじゃあ、ジョブとスキルはその子にあげて下さい! 後の事はそれから考えますから」
「本当によいのですか! 後悔しませんか?」
「目の前の子供を見捨てるよりはマシです」
「そこ迄言うのなら、その子にジョブとスキルを与えます。貴方は本当に良いのですか?
「それで結構です」
「解りました……それじゃ、そちらの方前へ」
「はい……用務員さん……ありがとう」
「気にするな」
「はい」
女生徒はジョブとスキルを貰うと俺に何回も頭を下げて消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます