元最強の魔法師が現最強で美少女の魔王と勇者に媚び売った結果、板挟みになった
あおぞら@書籍9月3日発売
第1話 元最強魔法師、同盟を求められる
「———あぁ、これが誰にも縛られない自由気ままな生活……最高じゃん」
俺ことメグル・スティン・ハヤミズは、強者以外は滅多に近寄らぬ、災害級のモンスターがうじゃうじゃいる『神代の森』に存在する巨大な池の畔に建てたマイホームのテラスにて……1人清々しい朝を迎えていた。
今日も変わらず池の中心辺りで海龍達の争いが行なわれているが……もはやそれも一種の風物詩として日常の一部になっている。
そもそもあいつ等の長とは仲もいいしな。
あ、今度またアンコウモドキ貰おっと。
「さて、今日は何しようかなぁ……適当に昼寝も良いし、暇だったらヘレナとかヴォイガーと遊ぶのもいいな」
何て考えつつ、今俺が自由であることを噛み締める。
これも全て———世界最強の称号である『極地』が俺じゃなくなったお陰だ。
———『極地』。
1000年前の初代『極地』から代々受け継がれてきた世界最強を表す称号。
その称号は、世界の秩序を護ることを強要される最低最悪な『バランサー』と呼ばれる神代魔道具の腕輪の宿主となった者に与えられるもので、つい数ヶ月前までの数年間は俺が冠していた。
そのせいで俺は色んな場所に駆り出され、色んな場所でクソ面倒な奴らとほぼ無償で戦ってきたのだ。
逆らったり無視すれば、俺が向かうまで『バランサー』から魔力が流れて激痛が走ったり、ビービービービーとクソ五月蝿いアラームみたいな爆音が永遠に流れるというゴミ機能付き。
初めて知った時に自分の腕ごと吹き飛ばそうとしたのは最悪な思い出だ。
そんな世界最強という呪縛にイライラしていた俺だったが———遂に数ヶ月前、その呪縛から開放されたのだ。
何と……朝起きたら腕輪が完全に消失していたのである。
始めは信じられなかったが……嘗ての仲間で、世間の情報に敏いヘレナから、別の人間が魔道具に選ばれたらしいという情報を貰い———そこからは狂喜乱舞の嵐。
まずは知り合い全員に解放宣言をして回った。
その後は集まった者達と、毎晩毎晩『解放祝い』と表した宴を開催して浴びるように酒を飲み、皆んなでとても元世界最強パーティーとその友人とは思えない子供みたいな騒ぎ方をして遊んだ。
その中でも特に、早く湖を泳ぎ切れた方が最高級ワインを手に入れる、という遊びは白熱したね。
俺とヴォイガー、マルマードにハイゼンドの男同年代対決は、超絶僅差で酒を比較的飲んでいなかったハイゼンドが勝ったが……ヘレナやマリン、ユミルとアリスの女性陣の戦いは、色んな意味で物凄く盛り上がった思い出がある。
余談だが、女性陣には皆んな恋人がいる。
ヘレナはマルマード、マリンはハイゼンド、ユミルとアリスはお互いが恋人同士……日本でいう百合カップルだ。
よって恋人が居ないのは、俺とヴォイガーだけである。
ねぇ、俺って一応世界最強だったんだけど。
美女の1人や2人くらい俺を好きになってくれても良くない??
———って思ったが、昔の自分を思い出して原因が一瞬で分かってしまった。
というのも。
俺が『極地』の座に付いたのが14歳の頃なのだが、18歳の後半……つい一年前くらいまでは厨二病真っ最中だったのである。
そりゃ頭おかしい意味不明なこと言ってたら好かれるものも好かれんわな。
俺が女子なら『俺の右腕が……いや、俺の右目が疼く……』とか毎度も言ってる奴は必ず距離を置くね。
……そう思ったらウチの仲間の女性陣達優しすぎないかな?
「ぁぁぁぁぁ今思い出しても痛すぎる……キモい、マジでキモすぎるって俺!」
過去のことを思い出して思わず頭を抱える厨二病から卒業した俺。
これが、異界からの迷い人であった俺の爺ちゃんの手記に書いてあった、所謂『黒歴史』というヤツだ。
本当に思い出したくないもん。
てか今俺が使っている厨二病やら百合やらマジとかガチとかも全部、その手記に書いてあったモノだ。
何でも日本という異世界の国で使われていたメジャーな言葉らしい。
まぁそんな話は置いておいて……もう俺を縛るものは何もないのだから、今日も今日とて好きなことをしよう。
さて、今日は何をするか———ん?
余計な考えを放棄して伸びをする俺だったが、何やら俺の方に向かってくる魔力を感じて……一気にやる気やら何やらが萎んでいくのを感じる。
……絶対面倒ごとですやん。
こんな危険な場所に来る時点で面倒ごと確定ですやん。
何て大きくため息を吐きつつ、つい昨日も同じ様なことがあったな……などとぼんやり思いながらガックリと肩を落とした。
「———さて、コイツらどうしよっかな……」
腕を組んだ俺は、机の上に置かれた2通の手紙をジーッと眺めながら唸る。
片方は人族のモノ。
白い封筒の表にある俺の名前は、人族の共通語であるアセルティア語で書かれており……裏には人族最強にして異世界より転移してきた———勇者
対して、もう片方は魔族のモノ。
黒い封筒の表にある俺の名前は、魔族の言語であるデュラバルデン語で書かれており……裏には魔族最強にして魔界を支配する———魔王セルカ・マギシュクル・フィア・デュラバルデンの名前が書かれていた。
昨日受け取ったのが人族のモノで、ついさっき受け取ったのが魔族のモノだ。
まぁこの辺りは、場所的に転移系の魔法が使えない所なので、ここから遠い魔族の方が遅いのも頷ける。
…………ってそんなこと考えてる場合じゃないんだよなぁ……。
あぁぁぁぁ開けたくないよぉぉぉぉぉぉぉ……!!
今直ぐ焼却なりバラバラに切り刻むなりして見ないで捨ててやろうかな?
「まぁ俺に恩人でもある2人からの手紙を無下にする度胸があるわけないんだけどね。いつもなら適当に破ってトイレに流してるけど」
そう、今回の手紙は送った主が問題だった。
何を隠そう———俺に変わって『極地』の座に付いたのが、この2人なのだ。
つまりは、彼女達は俺にとって人生の恩人とも言える存在だった。
そんな彼女達の手紙を無視したとなれば……どんな恐ろしい罰が待ち受けているのか、考えただけでお腹が痛くなる。
「はぁぁぁぁぁ……しゃーない、開けるか」
ボリボリと頭をかいた俺は、仕方無しに封筒を……封筒を…………おいさっさと破れろよ、紙のくせに随分と生意気じゃないか!
何でこんなに開けづらいんだよちくしょう!
元世界最強ともあろう者が、封筒を開けるのに苦労するというお茶目さもアピールしつつ……四苦八苦して開けた手紙に目を通した。
「えーなになに……『拝啓、メグル・スティン・ハヤミズ様。手短で申し訳ありませんが、極地の先輩であるメグル様と是非とも同盟を結びたい所存でございます。お返事はアセルティア城にてお待ちしております。1週間以内であれば、いつでもどの時間帯でもお越しいただいて構いません。敬具』……スゥッーーーーー……」
俺はゆっくりと深呼吸をして魔王側の手紙の内容に目を通す。
「……『拝啓、メグル・スティン・ハヤミズ様。この度はこの手紙を受け取ってくださり誠にありがとうございます。さて、手短ではございますが、私達デュラバルデン王国は貴方様と同盟を結ばさせていただきたく———もういいってっ! どうせそんなことだろうと思ったよ、くそったれ!」
2つ揃って面倒ごとを寄越してくる手紙達を無造作に机に捨て置き、俺は頭を抱えると。
「———もう嫌だよぉおおおおおおおおお!!」
現実逃避タイムへと移行したのだった。
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新作です。
よろしくお願いします。
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