第24話 ルールは単純
ホワイト指導官は、大きな声で続けた。
「今対戦相手を決めたところだけど、時間が許す限り総当たり戦をするつもりだ。今、チームは16あるから、二戦ずつ、二三分間でやっていこう。相手チームのどちらかに攻撃を入れられれば勝ちとする。何か質問は?」
「あの」爽やかな男性騎士が挙手した。「模擬戦における攻撃は、何をもってそう判断されるのでしょうか」
「おっと、それを忘れてたな」
そう言うとホワイト指導官は、自分の足元に手のひらを向けた。すると、魔力の紫色が彼女の足元に集い始め、円形の流れを生み、渦を為す。次第に渦の中心には濃い魔力の幕が現れはじめ、やがてそこから、大きな暗い球体が浮かび上がってきた。
球体がちょうど半分くらいの姿を現すと、それは中心に向かって一気に小さくなり、消失した。代わりに、その内部にあったであろう物が姿を見せる。木剣の束が、地面に置かれていた。おそらく人数分あるのだろう。
ホワイト指導官は、それを一本ずつ拾って、近くの騎士たちに手渡しはじめた。
格納の魔法。最も初歩的な魔法の一つだが、さすがは騎士団の魔剣士。無駄がなく、素早い魔力操作だ。
指導官は言う。
「模擬戦でこれを使ってもらうのは見ればわかるとして、この木剣が相手の体に触れた時点で、それは攻撃が入ったとみなす。連戦することになるわけだから、大切に扱いな」
随分とゆるいルールだなと一瞬思ったが、多分違う。
「木剣か……」
誰かが少し不安そうに言った。
やっぱりそうだろう。
魔剣士の体に武器で触れるためには、武器に魔力を通さなければならない。つまりこの木剣に魔力を通すことになるわけだが、木に魔力を通すのは、とても難しい。少しでも強く流すと、すぐに破損してしまうのだ。
私は鍛えたことがないのでわからないが、木剣は普通、剣術の鍛錬のみに用いられるものなのだろう。魔力ありの模擬戦でこれを使うのはおそらく特殊な例で、ここにいるほとんどが経験したことのない方法だと思われる。
だからこそ、いい訓練になるということでもあるわけだが。
「じゃあそことそこ、準備お願いね」
指導官は二つの組み合わせを指名する。二つ目が私たちだった。
「おい、勝手に攻撃食らうなよ」ロイドが言った。「お守りの訓練をしに来たんじゃないんだ俺は」
なるほど、一人なら必ず勝てると思ってるな、彼。
私はロイドに再度向き直った。冗談みたいだが、いまからこの人と共闘するらしい。でもやるしかない。
しかしどう見ても年下だし、こちらがかしこまるのも癪だから、ここは大胆にいくとしよう。
私は彼の目の前に立った。私の体は、女性にしては長身なので、少し見上げただけで目が合った。
「よろしく、ロイドくん」
彼の眉間に、深いしわが走る。
「気安く呼ぶな」
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