<感謝>の六界主(中身違い)〜死んだらいきなり正体不明の最強魔剣士になっていたので、彼女がどんな人間だったのか確かめたい〜
紳士やつはし
プロローグ 解錠申請
ある町が、更地になろうとしていた。
数刻前まで、そこには文明があった。
人々の大切な川があった。
それぞれの家族愛にあふれた、色とりどりの家々があった。
活気に満ちた、長い市場があった。
昼も夜も騒がしい酒場があった。
もう、見る影もない。
そこにあるのは、
ただのレンガ、
ただの木、
ただの泥水、
ただの土、
ただの肉、
ただの血。
周辺の人間はほとんど死に絶えた。
騎士団も、その増援部隊もすべて壊滅した。
そのなかで、一人の少女の命が、消えかけていた。
貧しい服装の少女。しかし、いつも楽しそうな目をする少女だった。
けれど今は、その目に希望など少しもない。彼女は震えたまま、動けず、逃げられなかった。
少女は昔から、他の子供よりも魔力の扱いが得意だった。それを周囲に自慢したりもしていた。
だから彼女にはわかった。
少女の前には、化け物がいた。この世に存在していることが信じられないほどに、歪で醜い化け物がそこにいた。
化け物に口はないが、関係ないことを少女は知っていた。
食われることを、少女は確信した。
その瞬間に彼女は目をつむった。
せめて迫りくる醜悪を直視しないようにするための、絶望的な反射だった。
化け物のおぞましい魔力が、少女の体を包み込む。
そのとき、誰かが目の前に飛び入った。
少女は驚いて、目を開けた。
人間。若い女の人の背中だった。
スラリとした体形。なびく黒髪。騎士団の制服とも違うジャケット。右手には剣を持っている。
ボロボロだった。肩で息をして、全身は傷だらけ、片側の横髪が血でべっとりと濡れている。
しかし、女の人はそれでも、少女を守るように、迫りくる化け物の進路を堂々とふさいでいるのだった。
少女は驚愕する。
少女にはわかるのだ。その女が魔剣士であるということ。そして、化け物には到底太刀打ちできない実力だということも。
だが女は、死への覚悟など決めていない。決死の身代わりなど考えていない。失敗など考慮していない。
ゆっくりと息を吐き出して、全身の余計な力を抜く。
その行為は、無謀でも、無意味でもない。
女は、化け物に向かって強烈な視線を解き放ち、
人間離れした気迫で、高らかに、
こう――宣言した。
「
全ての魔剣士にとって、最も名誉ある六つの席。そのうち正体不明の一席に座る女の、
ごく普通で、平凡な、しかしかつてないほどに強大な、魔力の姿を。
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