文脈

雛形 絢尊

第1話

新鋭の学生監督だ。

とある芸術大学の2年生の女性。

私はどうやら狂った役を演じるらしい。狂ったとしか台本には書かれていない。というよりも、私に台本は渡されていない。まさに、一発勝負としてこの場所に来たのだ。監督直々に聞こうともしたが多忙なようで諦めた。


重軽傷7名、軽傷2名、死亡者は、いません。

ですが、犯人は未だ逃走しております。


映画はいい。

役に入り込めるのだ。

映画監督にでもなればいつどこで、誰が命を落としてもこの掌の上なのだ。

そんなことを考えてはいるが、

これが私の勝負所、この仕事が肝心である。

はい、シーン1を撮りますと助監督である

彼が言うと、撮影隊が準備を始めた。


家族が嫌いだ。私を含め4人家族だ。出来のいい弟がいる。私の家庭は根っからの貧乏なようで昔から良いものというもの口にすることができなかった。

それもそのはずそういったものは私の方ではなく弟がすべて平らげた。馬鹿だ。この世界は。

弟も立場をわきまえ、陰でそういったものをくれたりした。私はありがとうと言った。


どうする、台詞などない。狂った、狂った狂った。

本番!と監督である彼女の大きな声が聞こえた。

4.3.2とカウントが小さくなり私の幕が開いた。

先に主演である女性が

「だから言ったじゃない」と声を荒げて言った。

それと反面、男性の方が「ここにいかれた奴なんていない」と言う。はて、私の出番だ。


私は重要なことを思い出した。

薬が切れたみたいだ。

私は重度の精神疾患を患っている。

頭のどこかで思ったのか。

どこかで崩れてしまうことがある。

例えば文章。小学校時代に書いた読書感想文、

そういう場面でも私の文字は崩れてしまう。

なんと言うか、接合できないのだ。

そこで制御不能になる。それが私だ。

この世の境界が分からなくなる。

そんな時はありませんか?

ある一定にあったものが溢れ出す瞬間、

私はこの"狂った"になりきる、

というよりも"狂った"になる。

いやそれもそうかと疑心暗鬼になる。

私は身体のどこかから冷や汗をかいているのに

気がついた。私はそのまま我を失ってしまったのだ。いやでも意識はある。何が起きている。


私は役者だ。それといっても仕事はないが、

所謂脇役というものだ。

今日は新たに仕事の依頼が来た。実に7年ぶりだ。私は成りきるよりもその人物に成ると言うことを意識し、俳優活動を続けてきた。

これからも。生涯ずっと私はそれをバネにして、それが例え羽になったとしても。

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