第1章

第1話

「お先に失礼します」









時計の針が5時を指したと同時に、席を立つ。


今日は絶対、残業しない!





「お疲れ様、早いね。何?デートかい?」




ドアまであと一歩のところで、ここ経理部の課長であるタヌキオヤジ...じゃない、田中課長に声を掛けられる。




「いえ、違います」



「野々村さんは綺麗だから、彼氏も沢山いそうで良いねぇ」





どういうこと、ソレ?


タヌキおやじに綺麗と言われてもまったく嬉しくないし、逆にセクハラと思ってしまうのは差別だろうか。




「友人と約束してるので、失礼します」




『友人』という単語を強調しつつ、急いで経理部を後にした。



オフィスを出る前に化粧室に寄って、ピンクベージュの口紅を塗り直す。クリップで纏めてあった、腰まである髪を下ろした。


短い前髪に大きなカールのかかったロングのヘアスタイルは、大学生のときから26才になった今までずっと変わらない。


カラーは気分で変えたりしたけど。今は春を意識して、少し明るめのブラウン。



オフィス用の小さめのピアスから、買ったばかりの大振りなのが可愛いオフホワイトのパールピアスに付け替えた。







今日は週末である、金曜日。


デートと思われても不思議ではない。

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