第55話
「たくっ、乙葉はどうなんだ?
コンクールの作品は進んでんのかよ?」
「んー…聖城さんを描くと決めたものの、構図が難しいんだよね!
ピアノを弾いている聖城さんは動いているし…それに、なるべく聖城さんと分からない様に描くってのが約束なんだ。」
「ふーん。
俺なら、何時でも付き合うのによぉ。
家が近所だし、いつでも乙葉の部屋に行くぜ?」
「翔太を描いてどうするのよ。
聖城さんの美しくて流水のようで、繊細な表現でピアノを弾いている所を描きたいの。」
「はぁ?
言ってる意味がわかんねぇ!」
翔太は不機嫌に眉間に皺を寄せる。
「荒々しい翔太には分からないよ。
でも、いつか、その荒々しくボクシングをしている翔太も描いてみたいな!」
「え?ああ、そっか。
べっ、べつにいいけどよー…。」
不機嫌な表情はとたんにだらし無く笑う。
「翔太はプロを目指してるのか…凄いね!
私なんて、まだ、自分の将来なんて分からないんだ。」
「今頃の歳で、将来なんてわかるやついんのかよ?
乙葉は聖城を描いて、秋のコンクールに作品出すんだろ!
今はそれで良くねーか?」
「そ、そうだね。
今は目の前のことに集中!
精神統一!」
「ったく、なにが精神統一だよ。
修行僧じゃねーんだからよぉ。」
調子のいい乙葉に、翔太は笑っていた。
映画も観終わり、2人はそれぞれの家に帰った。
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