第46話

「行かないでくれ、有希子さん!!」



「ー…。」



目の前の人物はスマホを耳元に当てながら此方を凝視している。



「あ………」



違った…


あの人じゃなかった



こんな所に居るわけがない



あの人は遠い昔に俺の前から居なくなったのだから




「ぇぇ…順調なのでご安心下さい。

では、また…」


通話が終了したのか、此方の方に歩み寄ってくる。



あの女に嫌なことを聞かれてしまった…



「充様、おはようございます」


「ー…今何時だ?」



「昼の12時でございます」



大事な最終日が近付いているというのに、やってしまった…



「はあ…」



「充様、学園にはお休みの連絡を入れております」


「有難う…」


「体調はいかがですか?」


「…なんともない…」


強がりを言うが、まだ体は怠かった。



「では、熱を計らせていただきます」


体温計を手に持ち、結夏は充のベッドに乗り上げる。



「ちょ、お前はべ、ベッドに乗るな!

メイドはどこだ!?」


「メイドには充様の部屋から出て行っていただきました。

私が居るので十分でしょう」



結夏はニッコリと笑う。



「さ、計りますよ?」


結夏の手は充の衣服に手をかける。



「っ!?」



結夏の指が触れるだけでやけに鼓動が早くなる。



なぜだ!?


ただ、熱を計っているだけじゃないか…



でも、妙に意識してしまう。



「…私の顔を見てどうかしましたか?」


「っは!?

な、み、見てない!!」


「そうですか…

あっ、充様の肌、白くて綺麗ですねー」


「へ、へんな事を言うな!

セクハラで訴えるぞ!!?」


「ふふ、さ、脇に体温計を挟んだら、そのままじっとしていてくださいね」


「言われなくても分かっている!」


フンと顔をそらす。



「ふふ、それだけの元気があれば熱は下がっていそうですね…」


結夏は安心したように微笑んだ。

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