Vol.1/心臓にナイフ(7)
そういった途端、善塔は、しまった、といった顔をした。
木崎らも、咎めるように善塔を見ていた。
白鳥とは、大手レコード会社、デッド・レコードの代表取締役の名前だ。二度ほど会ったことがあるが、もとはプロデューサーで、現役時に彼が手がけたミュージシャンたちは皆、チャートの常連だったという。
その白鳥が、どういうわけだかオレらクトゥルフを気にいって、自らメジャーデビューさせようと躍起になっているのだった。
大方、ひとりだけ反対している異分子をどうするか、話しあっているのだろう。蚊帳の外に置きたがるのも、わからなくもなかった。
練習は、彩菜抜きで始められた。
しかし、大した手応えもなく、貸し時間の終了とともに淡々と終わった。
いつもだったらこの後は、反省会と称して皆で居酒屋で呑むのだが、今夜は三人とも用事があるからと、そそくさと帰ってしまった。
このバンドはコンセプトから何からすべてオレがつくりあげたから、思い入れは人一倍あった。だから、簡単には潰したくなかった。とはいえ、バンドも所詮は人間関係、どこかで妥協をしなければいけないのかもしれない。
ギターケースのストラップが、やけに肩に喰いこむ気がした。
溜息をつき、駅へとむかって歩きだす。
と、足を止めた。
何やら、キナ臭い匂いがした。
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