第75話

わたしがあいつにキスをしてしまったのは、失敗だったのかも知れない。


恋愛感情を持てない女から唇を奪われるだなんて、本当に悪いことをした。


自分のことしか考えられなくなって、つい綺麗な月とお酒でテンションがあがり大胆になってしまった。



夜の罪を思い出したら顔から火が出るくらい恥ずかしい。



この明るくなった空の下


わたしはどんな顔してあいつに会えばいいんだろう。





「あ、光がさしてきたね」


「おおー!いいんでない?いいんでない?雲かかってないよ?」



利川さんの北海道弁らしい言葉にほっこりする。


その場に居合わせた人たちは、今年はまん丸の御来光だって喜んでいた。


日の出でこんなに盛り上がるのは、初めてかも知れない。



――――ここに、冴島も居たらな・・・


って思うけど、欲張っちゃいけないよね。



たぶん、怒ってるだろうけどさ、私は最高な思い出を月夜の晩に貰ったんだ。


これから気まずくなるだろうことは覚悟の上だった。


きっと今まで通りなんていかないだろうし、避けられるだろう


昨日犯してしまった罪


そのことで変わってしまうだろう私たちの関係


きっと避けられるだろう


態度も冷たくなるかもしれない


そうなる覚悟は、朝日と共に固まっていった。


――――はずだったのに・・・・




「ええ――~~~、なんでぇ?!俺も朝日見たかったのに~~!なんで起こしてくれないのさぁ!果歩ちゃん!!」



びっくりするくらい冴島は、いつも通りだった。



まるで昨日のことが何もなかったように。

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