第19話

こんなに大切に扱われたことがない。


 琢磨さんは行為の後、水分を取らせてくれたことも、こうやって頭を撫でてくれたことも、傍にいてくれたこともない。


 三浦さんの近くにいると大切に扱われることばかりで、触れ合う度にどんどん好きになってしまう。


「お風呂入る元気ある?」


「……無理かも」


「このまま寝てもいいよ。明日まだ休日だし」


「そうする…明日入る…」


「ん、おやすみ」


 最後に覚えているのは、おやすみの後に触れた三浦さんの優しいキスだった。






















 三浦さんと暮らし始めて、知らないことが実は多いことを知った。


 行きつけのbarで働くバーテンダーさんっていっても週に1回顔を合わすぐらいで、私の相談や話はするけど、三浦さんのプライベートは聞いたことがほとんどなかった。


 営業時間は知っていたし夜遅い仕事だと思っていたけど、予想以上に三浦さんの生活はハードだった。


まずはRedMoonの営業時間が18時から深夜2時まで、RedMoonは軽食のメニューも豊富で調理もバーテンダーがやるから開店準備は忙しい。


 営業後は閉店作業に練習とかをやってくるらしくて、後輩の面倒も見る三浦さんはそのまま始発組とお店に残ることもあるし。


 4時過ぎに帰ってきてもリビングで勉強してる。


 私が起きる6時半ごろには朝食準備をしながらニュースや新聞をチェックしていて、一緒にご飯を食べてお風呂に入って寝るって感じの生活。


 私と一緒に過ごせるのは休みの日の夜とか朝の時間だけで、私が寝るときには三浦さんは仕事だし、私が帰宅したときには出勤したあと。


 夕食まで作っていってくれるって言ったから、こんな多忙な三浦さんにそんなことまでお願いできないって話して、夕食と三浦さんが休みの日の朝食は私が作ることで決まった。


 三浦さんが作るご飯の方が美味しいのに、私が作った夕食を美味しい美味しいと嬉しそうに食べてくれるから、もっと喜んでもらえるようにこっそり頑張ってる。


 琢磨さんは何を作っても言われたことも相手にされたこともなかったことを一瞬思い出した。


 もう過去の人なんだね。

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