第16話

私が軽い抵抗を見せるとすぐに体を離して両頬を包み込んで、優しいキスをした。


「今日も一緒に寝ような」


「昨日も一緒に寝てくれた?」


「寝たよ。寝落ちした真穂をお姫様抱っこで寝室まで運んで…」


「ほんと!?」


「嘘だよ。おんぶで連れて帰ってベッドに投げおろしたのに全然起きないから一緒に寝たんだよ」


「さいってー!最低!乱暴最低!」


 なんて怒ったけど、本気で思ってないよ。


 お姫様抱っこは嘘かもしれないけど、投げおろすとか乱暴なことな三浦さんはしない。


 だって、三浦さんに優しくされた夢を見たもん。


「そろそろ起こそうと思ってたんだよ。あんま遅くなってから荷物取りに行くのもやだったから」


「……あ!忘れてた!」


「すぐに食べれるなら用意してある朝食あるし、先に支度するなら風呂入れるけど…」


「先に朝食食べる!お風呂は大丈夫!着替えてメイクしたらすぐに行きたい」


「……まじでいいの?俺の香水の匂いとか混じってるけど」


「関係ないもん、あんなクズ」


 はっきり言いきった私がツボに入った三浦さんはお腹を抱えて笑っていたので、無視してダイニングテーブルに向い、今日も彩よく並べられた料理に手を合わせた。


 今日も美味!な三浦さんの朝食を食べてる間、三浦さんも向かいに座って新聞に目を通している。


 年代問わず色んな人と話ができるのは、こういったところでも手を抜かない三浦さんの真面目さもあるのかな。






 支度を終えて同棲していたマンションについたのは12時を少し過ぎたあたりだった。


 一応時間帯があれだから、着いたけど行ってもいいか確認とってみたら、「今日は外出してるから自由にどうぞ」と簡潔な返事がきた。


 主の確認がとれたので、自分が持っている鍵で開けて三浦さんと一緒に中に入った。


 いくつか用意した段ボールに自分のものを詰め込んでいく。


 自分たちで運ぶのは大変そうな家具やインテリアは業者を頼んだので、まとめられそうなものは私の部屋の入り口近くにまとめた。


 こうやって荷造りして見ると私個人の荷物は少なくて、2往復ぐらいで三浦さんの車に全部詰め込むことができた。


 最後に部屋を一回り確認して、鍵を閉めたらポストに戻して帰る。


 もう二度とここに足を踏み入れることはない。


 同棲するまで料理をしたことなかったけど、琢磨さんのために一生懸命練習して、今じゃ人並みに美味しいものを作れるようになった。


 柔軟剤の匂いでケンカして、お風呂に一緒に入るのをじゃんけんで争ったり、リビングでゲームバトルをして大人げない琢磨さんに泣かされて…。


 全部、琢磨さんと過ごした時間はここに置いていく。


 先に外に出た三浦さんに続いて玄関を抜ける直前で、誰もいない部屋に向かって「さよなら」とお別れの言葉を残した。


 鍵をしめて、ずっと大事に守ってきたこの部屋の鍵を郵便受けに入れた。


 コトン―――


 小さな小さな音だった。

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