姫の泣きごと
第4話
今日は木曜日だから真穂が来るのは明日あたりかな。
と予想を立てながらグラスを磨いていたら、乱暴に扉が開かれた。
酔っ払いか新規の客か?
確認するために目線を向ければ、唇を噛み締め大きな瞳に大粒の涙を溜めこんだ真穂がいて、真穂が俺の視線に気づくと食いしばった動きで目の前のカウンターに座った。
様子を確認したくて声をかけると、珍しく強いお酒が飲みたいって言うし、何かあったのは分かるけど、ここまで荒れてる真穂は初めてだった。
最初の1杯を飲み終えた辺りで真穂の話を聞くと、なんとも胸糞悪い言葉たちが耳に届いて、理性が働く前に真穂に説教していた。
なんとなく真穂の話でその男のことが好かなかった。
真穂の中では美化されてる彼氏が俺にはクソ野郎にしかみえなくて、元遊び人の俺の勘なんか信じず恋に走った真穂は見事に泣かされ戻ってきた。
なんでそんなクズのとこ行ったの?そんなクズのどこがよかったの?
優しくなんてできるわけねーだろ、俺がどんな気持ちで真穂の彼氏の話聞いてたと思ってんだよ。
当の本人は俺の気持ちになんて気付かずオーナー掴まえてわがまま放題自棄酒浴びてて、他のお客様を相手しながら真穂のことが気になって仕方なかった。
閉店近くになりお店の中が落ち着いた頃、カウンターで見事につぶれた真穂を見つけた。
オーナーがちゃんと真穂の様子を見ていてくれたからお持ち帰りの心配はなかったけど、ここまで飲むなんてなにやってんだこのバカは。
俺の考えは顔に出ていたみたいで、真穂の近くをキープしながら閉店作業を進めていたオーナーと目線があうと呼ばれた。
「落ちちゃった」
「……そりゃそうでしょ」
「真穂ちゃん、今日は自宅帰れないっていうし、和希泊めてあげてよ。今日の閉店作業は俺らに任せていいから、早く真穂ちゃん休ませてあげて」
「……すみません、ありがとうございます」
正直、真穂をずっとこのままにさせるのも心配だったので、オーナーの言葉に甘えて今日は上がらせてもらうことにした。
身支度を整えて真穂のところに行くと、起きる気配はなく、顔を覗き込むと無防備に寝ている寝顔があって、こいつの危機管理能力のなさに怒りがまた浮かんできた。
真穂をイスから落とさないように背中に担いで、オーナーたちに挨拶して自宅へ足を進める。
俺の自宅は職場から歩いて10分もしないところにあるから、このまま真穂をおんぶで連れ帰ることにした。
今日は俺自身、あまり飲んでないし、冬の深夜2時すぎの冷たさは酔いを醒ますには充分の威力があった。
真穂は気持ちよさそうに寝たまま動かない。
時々辛そうな声を出すけど、すぐに落ち着いて気持ち良さそうな寝息をこぼすから、起こさず見守ることを繰り返したら自宅に着いた。
寝室までそのまま向かい真穂を寝かせると、履かせたままのブーツを脱がして苦しそうにしている下着も解放させてやった。
そこでいつもとは違う反応を見せた真穂に声をかけた。
「真穂?起きた?」
俺の言葉を遮るように真穂が発した言葉は、俺を挑発するのに充分だった。
「琢磨さん、なんで…」
寝ているはずの真穂の目から涙が流れて、夢の中まであのクズに支配されてる真穂に心底イラッとした。
「早く忘れろよ」
真穂の涙を掬って軽く触れるだけのキスをすると、今後は舌を絡めるキスをしながら、服の中に手を入れた。
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