第48話

蔵永の視線を軽く受け流して部屋を後にした。



駐車場では空を見上げながら俺を待つひなたがいて、前の彼氏からもらった癖なんだろうな、夜空を見上げて星を探すのが好きだった。


「…あ!店長!お帰りなさい!」


「しっ!蔵永まだ起きてるからあんまはしゃぐな」


ぶーっと口を尖らせてひなたは車の鍵を開けた。


俺も助手席に乗り込み、ひなたは車を走らせた。


「店長の家でいい?」


「たまにはラブホにする?」


「えー!やだーはずいー!」


「俺んちでいいよ」


「え!粘らないんですか!?」


「ひなた寝ちゃうし家の方がゆっくりできんじゃん」


「そうですね」


ラブホだって悪くないけど、俺の家にあげるのはひなただけだし、こいつが家にいるほうが落ち着くんだよ。


理由つけずに泊まらすことできるし、可能限り俺のそばでひなたを独占したい。


そう思うとむくむく沸き上がる感情。


「蔵永ってひなたのこと好きだよな、絶対」


「そうだと思います!絶対!」


「はぁ!?自覚あんのか!!」


「え!自覚あるってなんの話ですか!?」


「…お前、なんて聞き間違えた?」


「え?…蔵永って俺のこと好きだよな、絶対」


「アホか!!キモいこといってんじゃねーよ!」


「店長なに泣き顔になってるんですか!高校生時代の辛い過去でも思い出しました?…いたっ!運転中です!暴力反対!!」


うっせ。


口には出さず窓の方へと顔を向けた。


俺が通ってたのは伝統あるクリスチャン高校で、男子校だった。


ひなたも含め俺の顔を童顔童顔バカにするが、昔はもっと苦労した。


変な先輩からはトラウマになるぐらいきわどい告白を何度も受けた。


軽い古傷まで癒えたのに、見かけによらずエグい下ネタを話すひなたによって大きな傷へと戻ってしまった。


20歳を過ぎて堂々とタバコを吸ってても警察に年齢確認され、もうされないだろうと思った26の時でもされたばっかだ。



ひなたが年下好きだと聞いて、俺の顔が童顔だったから惚れたんじゃないかって本気で悩んだ。


これでもし、ひなたの元カレの顔が大人っぽかったら泣くかもしれない、それぐらい俺はナイーブなんだ。


「蔵永くんがわたしのこと好きなんてありえないですよ。バカやドジばっかするわたしにイライラしてるだけで、好意じゃないです」


……どーだか。


蔵永にあんな視線向けられて素直に頷けるかよ。


「しかも、せっかく二人になれたのに、やっとなれたのに、蔵永くんの話なんかで時間使いたくない」


もうその言葉で俺の機嫌はすぐに直った。










それから今日まで、蔵永の態度は分かりやすいものへと変化している。


あれは好意じゃない、敵意だと思っているひなたには俺の心配や少しは見せてる焼きもちも伝わらず、ラインの交換まで目の前でして見せた。


蔵永から送るタイプじゃないし、まずはひなたから送ってくるまで待つだろう。

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