第31話

電話の向こうで黙ったわたしに、悠真が不安そうに声を発した。


「……ひな、今日ゆっくり話せるか?」


「……する、する、話する、もう、終わりにしたいっ……」


我慢できずわたしの返事は泣き声だった。


店長を好きだと自覚して、店長と恋人が過ごす時間を共有したら……悠真との関係がとても汚く見えた。


だってもう悠真とは別れている。


悠真の彼女はわたしじゃない。


ほんとに好きで好きで大好きで、今まで拒絶できずに体を重ねたのだって好きな気持ちが消えなかったから。


だけど、悠真は浮気をしたんだ。


他の人と最後まで。


今も完全にその繋がりがないと言える?



今、わたしたちは他人なんだよ?


店長の中に大事な恵里さんがいるように、悠真にだって大事な誰かがいるかもしれない。


店長の都合のいい女になれても、別れた悠真の都合のいい女にはなりたくないよ。


もう離してよ。


離れてよ。


ーーー大嫌い。





ーーーわたしは、じぶんの本当の気持ちなんて見えてなかった。



見えてるつもりだった。


"わかってるつもりだった"



本当の意味で見えてるのもわかってるのも店長だった。


傷ついてるのも店長だった。


傷つけてるのは、わたしだった。


全部わかってて、店長は手を伸ばしたの?



助けてって伸ばした手を誰か掴むことはできた?





電話の向こうの悠真にもすぐに伝わったようで、本当の終わりのカウントダウンが見えた。


「ひな、あとどれぐらい?」


「…あと3分かな?」


「やっと"もうすぐ"まで来たね」


「………」


「拗ねんなよ」


「すぐ着くから電話切るよ」





「やだ」








「ひなたの声聞いてたい、目の前に来るまで電話切らないで」


「…悠真ちょっと鼻声だね。外で待ってること多かったからついに風邪引いたかな?」


「泣いてるからだよ」


「…オブラートに包んでくださいよ」


「男子高校生だって恋愛で泣くんだよ」


「初めて知ったよ、悠真が恋愛で泣くなんて」


「好きな人の前じゃかっこよくいたいじゃん」


……付き合ってる頃に聞きたかったな、


返事が声に出せなかった。


悠真、今頃は卑怯だよ。

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