第6話

「いいじゃん、ケンカの後のキスが、ギョーザの味って」


 意地悪そうに笑って、私の頭を抱きかかえるように、また、翔琉の腕の中に閉じ込める。


 翔琉の腕の中に長くいて、だんだんと私の服に翔琉の香水の匂いが移ってくる。


 鼻をかすむ匂いが、ギョーザの匂いから翔琉の香りに変わってきて、やっと、やっとほっとした。


 翔琉の背中に腕を回すと、翔琉が抱きしめる腕を強くする。


「ごめんな、泣かせて…。ごめんな」


「…ううん、翔琉が来てくれた、それで十分だよ」


 翔琉が来てくれた、こうやって抱きしめてくれた、キスをしてくれた。


 それが、翔琉の出してくれた答えだと思うから。


 根本の価値観の違い、恋愛観の違いは解決できていないけど、今のところは、ギョーザの匂いが辛い記憶にならずに済んだから。


 今回はよしとしよう。


 だって、このままだったら、ずっとギョーザを作るたびに泣くことになったかもしれない。


「翔琉、明日は一緒にギョーザ食べようね。今日のギョーザは、にんにくとにらが増し増しだよ」


「…どうりで…」


 その後の言葉は、どうぞ最後まで閉まっておいてください。



 


―――ケンカの後のキスの香りは、ギョーザの味。



終わり。

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