第2話

「なんで、なんで…っ!全部ばか正直にいうのが、誠実ってことじゃないんだよ!!」


 電話の向こうにいる翔琉は、私がこんなに泣いている姿が想像できる?


 翔琉が、どうしても大事な部下だから、優先したい用事だから、って。

 

 私との約束より優先した人は、翔琉が昔、関係をもった女性だった。


 翔琉は嘘をつかれることが嫌い、浮気が許せない。


 だから、自分も全部正直に話す、と言って、私と出会う前に好きだった女性のことを話してた。


 映画を見にいって、泣いている姿を抱き寄せて、もうじき結婚する彼女に、気持ちを伝えることなく終わったって…。


 そういってたのに、しっかり手を出して生でやって、しかも、それが大事にしている部下の一人だったなんて…!


 なんでもかんでも正直に話されて、知らなければ気にならない、知らなければ傷つかないことが、たくさんあるんだよ…!


 私の涙の訴えなんてわからない翔琉は、電話口で責める私の様子に気持ちが冷めていくのが、伝わった。


 溜息と共に、吐き出された言葉で、私の心は大きくえぐられる。


「…ごめん、正直、気持ち冷めてる。あんなに好きで、出会ってすぐに結婚考えるほど好きだって思った星菜のこと、今、なんとも思えない。約束ドタキャンして部下を優先した俺が悪いかもしれない。けど、そんな責められること?あいつとは今はなんもないし、結婚してるし、いちいち気にすることじゃないだろ?」


「…っ、冷めたって簡単に口にするの?頭で理解できても、感情が追いつかないことって、あるんだよ?翔琉が好きだから…、感情が理性に追いつかないことが、あるんだよ…っ」


「やましいことが一切ないから、正直に話してるのに、信用できないってことだろ?今の星菜と話しても、どんどん気持ち冷めるだけ。もう、今日はここで話終わりにしない?俺、明日の泊まりもなしにするから。星菜に会いに行きたいと思うほど、気持ち残ってないわ」


「…別れるってこと?」


「そうなるかもな。気持ち、冷めちゃったから」


 翔琉の言葉に、もう、何も言えなかった。


 今までの恋愛は、自由な彼氏に振り回されることばかりで、自分が安心する恋愛ができていなかった。


 寂しい、会いたい、甘えたい、頼りたい、そういう気持ちを我慢して、相手が求める私でいることを強いられる、そんな恋愛だったと思う。


 『甘えていいよ、弱みを見せていいよ。我慢しなくていい、寂しかったら電話してこい。1人で我慢するな。会いたい、寂しいって泣くのが普通の恋愛なんだよ』


 そういって、私を強く抱きしめてくれたのに。


 『離れていかないから、安心していいから。』


 翔琉の腕の中でそう言われてる気がして、安心したのに…。


 切られた電話の向こうにいる翔琉は、私に安心なんて一つもくれない。


 知らないままでいたら、部下を優先する翔琉を責めなかった。


 責めすぎた私が悪いかもしれない、感情的になった私が悪いかもしれない。


 だけど、我慢しなくていい、俺には素直になんでもいっていいって言ったから、気持ちを分かってほしかった。


 好きな人が、好きだった女性を優先したら、傷つくよって。


 翔琉を好きになって、会えない寂しさを覚えて、恋しい気持ちを教えてくれて。


 いきなりこんな風に突き放されたら、どうしていいか、わからなくなる。

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