第6話
おまけ
思い出す先輩は、クールな姿が多いけど、優しい匂いがセットでついてくる。
バレーボール部に所属している私と、美術部に所属している先輩では、接点がないはずだった。
たまたま先輩が保健委員をやっていて、突き指や小さな擦り傷で保健室に顔を出す度に、先輩が当番の日が多くて。
テーピングを巻いてくれる指が、絆創膏を取り出す指が、綺麗で、いつも目を奪われて、どの仕草も、動作も、触れる部分が優しくて、先輩を表しているようだった。
その指で持つ鉛筆が、筆が、描く絵が優しくて、そんな先輩の指が触れる相手が、女性が、妬ましいほど羨ましく感じた。
今日、先生は寿退職する。
私のクラスの副担任をしてくれた先生に、私が花束を渡すことになっていた。
先生の目の前まで行き、抱えた花束を差し出す。
笑顔に涙を浮かべた先生がかがんで花束を受けとろうとした瞬間、私は先生の目をしっかりとらえて口にした。
「不倫はだめですよ」
先生の瞳が涙とは違う揺れ方をしたのが分かったけど、笑顔でにっこり笑って席に戻る。
小さな仕返し。
爆弾を抱えたまま、新婚生活を楽しんでください。
先輩に残した大きな傷を、私は一生、許しません。
窓の外に目を向けると、例年より早く咲いた桜の木が満開を見せていた。
昨日、久しぶりに足を運んで、先輩の姿を確認した。
先輩は、今の私のように、窓から満開の桜を眺めていて、背中を向けられているから、表情は確認できなかったけど…。
泣いている気がした。
先輩が、泣いているように感じたの。
私は、先生だけが幸せになるのは許さない。
それに、先輩が先生に囚われたままも、許せない。
だめかもしれない、苦しいかもしれない、後悔するかもしれない。
すごく時間をかけて、どうにもならない結果に泣くかもしれない。
それでも、手に入らない愛情を諦めずに、私は欲し続ける。
桜の満開を見つめる背中に向かって叫んだ。
「諦めないから…!振り向かせるから…!忘れさせてやるんだから!!」
私が先輩を幸せにします。
だから、とっとといなくなれ。
これからも、私の知らない私が顔を出す。
恋愛は、良いことばかりじゃない。
嫌いな自分とも出会っていく。
それでも、欲しいものをほしいと、私は求めていく。
先輩のことが、大好きだから。
これで本当の終わり。
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