第47話

「三上さん、行ける?」


 望月くんの声に「大丈夫」と返事をする。


 2人で順番にタイムカードを切って、バックヤードを後にした。


 お客様の邪魔をしないよう、空いている通路からお店を出て、従業員出入口へと向かう。


 バイトを始めてから、望月くんと並んで2人で帰るのは、始めてかもしれない。


 はせくんとは違う香水が鼻をかすめる。


 同じぐらいの身長だけど、隣を歩く姿は、全く違う雰囲気を与えた。


 はせくんは、隠れていない部分から、筋肉質なことがわかる体格をしているけど、望月くんはすらっとした印象。


 全体的に、柔らかい雰囲気をまとった人だったから、坊主にしたギャップが大きかったかも、しれない。


 従業員カードをかざして外に出る。


「スタバでお話する?」


「そうだね。最近出た新作、まだ飲んでないんだ」


「バナナだよね?俺もそれ、飲んでみようかな」


 外に出ても、並んで歩けることが、新鮮で嬉しくて、気持ちが落ち着かなかった。

 

 今から、わたしたちがする話は、とても、とても、重たいものになるかもしれないのに…。


 望月くんに彼女がいることを知った日、ここを歩きながら、泣いたことを思い出す。


 (望月くん、好きになって、ごめんね)


 わたしの想いが、これ以上、望月くんを、苦しめないように。




 



 2人とも、出たばかりの新作を頼んで、テラス席に腰かける。


「ん!美味しい!バナナだ!」


「ほんとだ」


 美味しい!と顔を見合わせながら飲み進めると、望月くんが、空気を変えるように、言葉を発した。


「別れたよ、彼女と」


 飲み物をテーブルに置きながら、少し遠くを眺めるような視線を向ける。


 望月くんの様子を見つめながら、わたしもテーブルに飲み物を置いた。


「話していい?」


「…うん」


「俺、三上さんが好きなんだ」


 来ると思った言葉と、違う言葉が耳に届いた。


「……え?」


 聞き返すほどに、耳も、頭も、受け取る準備が出来ていない。


 望月くんは、びっくりして言葉が出てこないわたしを優しく見つめて、続きの言葉を紡ぐ。


「どこかで自覚はしてたんだけど、…自覚をするのが、怖くて。結構、逃げ回って、はせには焼きもち妬くし、三上さんにはいい態度とれなくなるし」


「……っ」


 望月くんが、悩んでいたことに、わたしは気づいてなかった。

 

 なんとなく気まずくなっていった原因に目を向けるより、望月くんに、わたしの気持ちがばれるほうが、怖くて。


 傷つきたくない気持ちが勝って、望月くんの様子を、ちゃんと見ようとしてなかった。


 今の望月くんの表情を見て、あのとき、なんで見ようとしなかったのか、後悔してる。

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