第17話

望月くんが電話を切った後、はせくんから連絡もなかったし、私から連絡することもなかった。


 はせくんが電話をくれたのに、最後に聞いた望月くんの声に全部を持っていかれた、罪悪感から、何もできないまま、今日のバイトの時間を迎えてしまった。


 深呼吸をする。


 気持ちを切り換えて、バックヤードの扉を開けた。


 いつも望月くんの方が早く来る。


 今日も望月くんの方が早く来ているだろうな…と予想した通り、中心にあるテーブルに望月くんの存在が確認できた。


 予想と違ったのは、望月くんがテーブルに突っ伏して昼寝をしていること。


 前回見たときの望月くんもテーブルに伏せて寝ていたけど、バックヤードで寝ている姿は珍しく、最近、忙しいのかな?寝る時間ないのかな?と心配がよぎった。


 起こさないように荷物を置きながら、寝ている望月くんにそっと近づく。


 普段なら、彼女しか見ることが出来ないだろう寝顔。


 長い腕の間から覗く綺麗な二重と、長いまつ毛。


 少しだけ伺える望月くんの寝顔は、目を閉じていてもきれいだと思った。


「…イケメンは寝ている顔もかっこいいな…」


「……そういってくれるの、三上さんぐらいだよ」


「っ!!!え!!!」


びっくりして後ずさりをすると、背後にあった棚に思い切り頭をぶつけた。


体を起こして私を見た望月くんもびっくり!


残っていた眠気も吹き飛んだと思う…。


「大丈夫!?ごめん、俺がいきなり声かけたから…」


「だ、大丈夫!そんなことない…!わたしが盗み見してたから…!」


痛さと混乱と焦りで、言葉がしどろもどろになる。


「望月くん、起こしちゃった?」


自分の痛みや恥ずかしさより、望月くんのそっちが心配になった。


「ううん、そろそろ起きないとな―…と思いながら、うだうだしてたところだったから」


「寝不足?最近、忙しい?」


「うーん、…大学とかバイトとかじゃないんだけど、ちょっと寝不足になること、多かったかな」


「あ…、彼女さんとの時間ですか?」


「…うん、まあ…」


「羨ましいのろけですね!心配して損した!」


頭の痛みも心の痛みも、笑いで吹き飛ばした。


こんなことで傷ついていられない、私が好きになった人には「彼女がいる」。


知っていて、恋を継続するって決めたんだから。


「今日のボーリングのことは彼女に話してある?」


「うん、一応伝えたよ」


普段通りの望月くんで返事が来たのに、少しだけ違和感を覚えた。


声だけで感じた違和感だったから、振り向いて望月くんを見つめたけど、本当にいつも通りの様子。


わたしの気のせいだ…、嫉妬する気持ちが小さな違和感を生んだだけかもしれないし。


「ボーリング楽しみだね!望月くんは得意?」


「得意、な方だと思うよ。はせは見た目通り、何やっても様になるぐらい上手いのがむかつくけど」


「はせくんって器用だよね。仕事ぶり見ててもそう思う」


「勉強もできるんだよー…あいつ、まじむかつく」


珍しく年相応な反応を見せる望月くんに、はせくんは心を開いた本当の親友なんだと実感した。

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