傷つく覚悟を決めたから。

第40話

呼び出し音が、わたしの緊張を高めていく。


 (はせくん…はせくん…)


 なかなか切れない呼び出し音に、心臓の高鳴りは大きくなった。


 もう、寝てるかな、…遅い時間だし、明日、かけ直した方が…。


 電話を切ろうか、迷いが生まれたとき、音が途切れる。


「…里帆?」


 いつもより少し低い声。


 電話越しだと、はせくんの声がいつもより、もっと…異性に感じた。


「ご、めんね、遅くに、電話して…」


「大丈夫、まだ起きてたから…」


 顔が見えないと、はせくんの優しさがダイレクトに伝わる気がする。


 クールで高身長で、ちょっと高圧的な雰囲気があるから、怖く見られるときがたまにあるけど、細かいところまで気づいてくれる優しい人だって、誰よりも、知っている自信があった。


 それぐらい、はせくんがわたしにしてくれたことは、大きい。


「はせくん」


「…うん」


 真剣なわたしの声に、はせくんも、受け取る準備があるよって伝えるように、しっかりと落ち着いた声で、応えてくれる。


「たくさん、ありがとう。望月くんのこと、はせくんがいなかったら、こうして乗り越えること、できなかった」


「……乗り越えられた?」


「うん。乗り越えられた。ありがとう。はせくんのおかげだよ」


「俺の、自己満足だよ。それでも、里帆の力になれて、よかった」


 ちょっとだけ、声に元気がない気がする…。


「はせくん、…疲れてる?」


「ん…、ちょっと、そうかも…」


「……」


 心配だけど、なんて声をかえたらいいか分からない。

 

 わたしは、はせくんに助けてもらうことばかりだったのに、わたしがはせくんの力になれたことが、今までを思い返して、なかったから。


 言葉に迷っていると、はせくんが流れを動かすように、言葉を開いた。


「キスしたこと、怒ってる?」


「え、ううん…、怒ってないよ」


「嘘つき。…怒ってたじゃん」


 (あ、今、拗ねてるかも)


 さっきとは違う感じのはせくん。


 今までと違うはせくんを見れてる気がして、嬉しい気持ちになった。


「キスしたことには、怒ってないよ。あの場でしたことに、怒ってたの…!」


 訂正をしたわたしの言葉のあと、少しの沈黙が流れる。


 はせくんの次の言葉を待つ。


「…洸のことは、ほんとにもういいの?」

 

 はせくんの、核心に触れた気がした。


 今日は、知らないはせくんがどんどん出てくる。


 こんなに、弱くて可愛いはせくんを見れたことが、はせくんが見せてくれることが、嬉しい。


 望月くんのときは、踏み込んで知ることで、嫌いになる瞬間が増えていった。


 はせくんは、違う。

 

 踏み込んだ先で見える、普段と違う顔が、完璧じゃない姿が、嬉しくて、好きって、心が叫んでる。

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