第18話
「明日、はせくんにお願いした方が、よかったかなー…」
菜子さんが、答えの出ないわたしを心配して、今日のはせくんのことを引き出す。
独り言のように出した後、腕を抱えて悩んでは、「あああー…」と葛藤する。
「…はせくんなら、上手に切り抜けてくれると思うけど。そうやって先延ばしにしても、直面するときが来ると思う」
気持ちに答えを出した菜子さんが、わたしをまっすぐ捉えた。
「里帆ちゃん、向き合ってみるのは、どうかな」
「…望月くんに、気持ちを伝えてみるって、ことですか?」
「うん、里帆ちゃんが思ってること、はっきりと、全部」
「……そう、ですね」
「向き合うのは怖いけど、先延ばしにして、気持ちが膨れ上がってからの方が、もっと怖いと思う」
「そう、思います。このまま、望月くんと接するのも、怖いので…」
「望月くんの元々の性格に問題はないから、大丈夫だと思う。基本優しいし、女関係にだらしないところも、今までなかったんだけど…」
過去の望月くんを想像しながら、「なんで今、こうなってるんだろう」と、悲しそうな顔を浮かべる。
(心配してくれる菜子さん、久保田さんに、負担をかけないように、じぶんたちが出来ることはしていこう。)
バイトのわたしたちの恋愛事情まで心配して、親身になってくれる優しい社員さんだから。
わたし自身が、動くところは、ちゃんと動く。
「菜子さん、勇気でました!向き合います!ちゃんと聞きます!彼女いるの?って。わたしの気持ちも伝えて…」
「…うん」
「向き合ってくれる望月くんと、けじめつけてきます!」
わたしの中で、シナリオがちゃんと出来た。
望月くんは、彼女がいることを、ちゃんと応えてくれる。
思わせぶりに感じるスキンシップは、わたしが望月くんを好きだから、過剰に受け取ってしまう。
これ以上好きになっても辛いから、一定の距離を置いてほしいこと。
望月くんが好きだってこと、この恋を終わりにすること。
わたしは、彼女がいる望月くんを、好きで居られない。
彼女がいることを知った時点で、この恋の終わりは、わかっていたから。
「菜子さん、…頑張ります」
明日、きっと泣くと思う。
でも、望月くんの前で泣きたくないから、先に泣きます。
「……っ、失恋、辛いです」
下を向いて涙を流すわたしを、菜子さんが優しく抱き留める。
菜子さんの腕の中は、今日のはせくんを思い出させた。
優しくて暖かい、だけど、はせくんのような安心感は、少し物足りない。
菜子さんの方が柔らかくて優しい匂いがするのに。
筋肉質で大きくて、異性を感じるはせくんに、菜子さん以上の安心を、感じるようになっていたんだね。
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