傷つく覚悟を決めて③/初めて触れる、色んなこと。

第15話

仕事に集中してるつもりでも、同じフロアにいる、望月くんとはせくんに、目線を奪われる。


「里帆ちゃん」


「っ、はい」


 横から可愛らしい菜子さんの声が聞こえて、ぼーーっとしていた意識が戻される。


 手元だけはちゃんと動いてくれて、直しが必要な棚は綺麗に整頓されていた。


 ほっとしてすぐに、菜子さんに向き直る。

 

 わたしの態度を注意する様子は一切なく、菜子さんに浮かぶのは優しい笑みだけ。


「さっき、はせくんと望月くんと、なにかあったでしょ?」


 はせくんが休憩中、わたしが出勤、望月くんがバックヤードに用事があって、来た後のこと。


 はせくんがわたしの三つ編みを触って、望月くんがセクハラだって注意して、はせくんが反論して…、間に入る隙間なく、終わってしまった出来事。


 その後から、2時間近く経過したのに、わたしはあのときの気まずさを抱えたまま。


「……はい」


 なんて言葉を返したらいいのか。


 じぶんの中でもわかっていない状況なのに、どうやって説明したらいいのか。


 迷いながら言葉を選んでいると、望月くんの匂いがした。


 はっと顔を上げると、わたしと菜子さんの近くに望月くんが立っていて…。


「今日、ごめんね。良くない態度を見せちゃって」


 しゅん…と、落ち込んだ様子で謝る望月くん。


「え、あ、大丈夫!全然…!」


「また明日、被ってるよね。明日、いっしょのラストまでだから、…一緒に帰ろう」


「え、え…」


「じゃ、お疲れ様。菜子さん、お先に失礼します」


 (望月くんの退勤時間だったから、こうやって挨拶に来てくれたんだ…。)


 呆気に取られる間に、望月くんは挨拶周りを済ませて、バックヤードに入ってしまった。


 頭の整理が追いつかない。


 混乱するわたしに、菜子さんが提案をする。


「里帆ちゃん、今日、一緒に帰ろうか」


 話聞くよ、といってくれてるのが伝わる菜子さんの提案に、わたしは半泣きで返事した。


「おねがいします~~…」


 何がなんだか、わからないよ!!!!


 混乱するわたしを「よしよし」となだめながら、「もう少し頑張ろうね!」と背中を押してくれた。


 接客をしていて、退勤時間を過ぎてしまったはせくんも、挨拶周りにくる。


 菜子さんといちゃいちゃしているわたしを見て、若干引き気味の様子。


「……どうしたんですか」


「はせくん、顔に出てるよ」


 菜子さんのツッコミをスルーして、「なにかありました?」と投げかける。


「明日、望月くんが一緒に帰ろうって約束をこじつけたの」


「…はあ?」


 はせくんの顔が、一瞬にして歪む。

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