第13話
---バタン
扉を閉める音が、静かなバックヤードに響くと、固まった体の緊張が解けていく。
口を挟むことも、できず、止めに入ることも、許されず。
緊張の糸が切れて、わけもわからず涙がこみ上げる。
(怖かった…っ)
目の前にいる2人が、わたしの知らない望月くんとはせくんで、ケンカのようになっている状態は、ほんとうに心臓に悪かった。
「はせくん、腕、大丈夫?」
「…相当、怒ってたみたいだな」
困ったように笑うはせくんに、(いつものはせくんだ)とほっとする。
「痛い?」
「見ての通り」
おどけて見せてくれる腕は、指の形がくっきりわかるぐらいの圧が残って、「ひぃ!」と情けない声が出た。
「これ、相当痛いよ、どうしよう…!」
「あとで翔さんから、保冷剤借りるわ」
「わたしが準備するよ!」
急いで翔さんのところに向かうとするわたしを、はせくんの長くて固い腕が引き留める。
「え?」
びっくりして立ち止まっている瞬間に、後ろに回された腕に抱き寄せられて…、はせくんの硬い胸の傍にいた。
回された腕が優しくて、はせくんの胸の中は、嗅ぎなれたはせくんの香水の匂いがして。
服の上からも分かる筋肉質に、胸がドキドキときめいた。
(なんだか…安心する…)
初めての経験なのに、ほっとする。
自覚してない緊張が、たくさんあったんだなって。
はせくんの腕の中で、抜けきれなかった緊張が、一気に解れていくのを感じた。
「そんな簡単に、洸のいるところに行くなよ」
「え、でも、お店にいるか、わかんない、し」
「じゃあ、…俺から離れていかないで」
「え、あ、……っ」
「ちょっとメンタル来てるから、もう少しだけ…、一緒にいてよ」
平気そうに見えてたけど、はせくんの心の中は、ぐちゃぐちゃだったかもしれない。
親友に「セクハラ」なんて言われたら、悲しいよ。
ケンカみたいになるの、いやだよね。
「わたしがもっと早く、否定してれば…、ごめん」
「里帆は悪くないから。俺、セクハラじゃないし。セクハラしてるの、洸だし」
拗ねたように続けるはせくんが、いつもと違って可愛く見える。
「望月くんだって、セクハラしてないよ」
笑って返したけど、はせくんはわたしと同じように返してくれなかった。
ただただ、抱きしめる腕を強めて、何も言わない。
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