夏の恋/あなたの匂い
第5話
私と悟先輩の秘密は、誰にも打ち明けていない。
悟先輩がつけたキスマークが消えるまで、彼氏と会うことはできなかったけど、ちょうど彼の忙しい時期と重なって、怪しまれることはなかった。
そして、あれが嘘だったのかと思うほど、悟先輩と私の関係は何も変わらず。
先輩が退職する日まで、私と悟先輩は今まで通り、2人で練習をする時間を続けてたけど、あの手が私の体に触れることも、唇を重ねることもない。
夢だったのかな?妄想だったのかな?
悟先輩と自分の状況に疑う気持ちが出てくるけど、お風呂に入る前の体を見て、あれは嘘じゃないんだと実感する。
「どんだけ、強く痕、つけたの…」
こんなに赤く濃く多く、主張する先輩の独占欲たち。
「ずるいよ…」
口にした瞬間、初めて、この恋で泣いた気がする。
今日が先輩の退職日だった。
今日で、先輩に会える最後。
何も変わらない、いつも通りの先輩と、いつも通りの私。
何も、何も、変わらないまま、変えられないまま。
少しの勇気で変えられたのは、後悔を1つ減らすことだけだった。
大きな勇気を出せたら、…小さな勇気でも、多くの勇気を出せていたら、先輩と私がいる今の未来が変わったかもしれない。
変えない道を選んだのも、変えない道に進んだのも、私と先輩の意思。
声に出せない涙が止まるまで、私はお風呂の中で先輩を想って泣いた。
言えずに終わった好きが、こんなに苦しいなんて知らなかった。
どうか、どうか、先輩が幸せでありますように。
私のことも大事に、想い出に残してくれますように。
私も、先輩のことは、大事な想い出にするから…!
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