《下校狩り》

黒猫扇子

第1話 下校


 ハンブレッダーズは《ヘッドフォンの中は宇宙》と歌いTHE BACK HORNは《ヘッドフォンの中に救いはないよ》と歌った。僕がどちらを信じるかと言えばハンブレッダーズと答えざるを得ない。なぜなら僕は終業のベルとともに教室を飛び出すような帰宅部で一緒に帰る友達もいないからだ。

 プレイリストを聴き終えた後にサブスクが勝手に流すオススメ曲が好きだ。自分が選んだ訳でもない曲が脳を走って時々は何かが引っかかる。自分の知らなかった好みを自覚する。何も無い下校時はそれがちょっとした娯楽で。

 いいと思う。幸せだと思う。僕は音楽が好きで一人の時間はそれを楽しむのに向いている。だから僕に友達はいらない。いらない、かな。いらないな。いらないと思う。

 公園が見えた。動物に乗って揺られるスプリング遊具が二つ目に入る。友達がいたとしてアレでどうやって二人遊ぶかは分からない。きっと分からないのは僕が一人だからだろう。モンハンの協力プレイをした事がなくて。ポケモンの交換をオンラインで知らない人としかした事がなくて。僕は友達との遊び方が分からない。いつかNintendo Switchも何処かに置き忘れてしまってそれっきりだ。


「友達、欲しいなぁ」


 漏れた独り言に自分で驚く。欲しいのかな、友達。かもしれない。少なくともずっと一人は嫌だ。明日は少し教室を出るのを遅らせてみよう。

 決意した僕の視界の隅で何かが動いたような気がした。

 それは空の茜色よりはどろりと濃くて。石塀と地面が作る影よりは平面からはみ出していて。

 妙に気になる何かだったが夜の影に溶けるように僕の印象からも消え去った。目を凝らしてももう見えない。

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