第3話

俺が書こうとしている小説にはモデルがいる。

大学時代の友達だ。

勿論、名前も変えるし、ストーリーも膨らませるつもり。

不倫なんかよりもずっと劇的なものに。


「モデルがいるの? 誰?」


姉が尋ねてきたその時、スマホが鳴った。

着信画面を確認した姉の顔に嫌悪が走る。


「あ、港口さま、こんにちは。お疲れ様です。え? 今、ですか? 家業の手伝いで実家におります」


姉が俺に背中を向け、ソファーから立ち上がり電話応対している。

姉の丁寧でよそよそしい口調から、後援会からじゃないかと推測。

俺はテレビを消音にした。


「そうなんですね、それは大変でしたね。では、夕方、そちらにお伺いしますね」


電話を切った姉は、軽く溜息をついて俺を見た。


「後援会の婦人部からだった。で、何の話してたっけ?」


「あ、あぁ、俺の大学時代の友達の話を書こうと思ってるって」


「私の知ってる子?」


「見た事はある。多分姉さんが居る時に遊びに来たよ」


「へぇ、名前は?」


「言ったって分かんないと思うけど、お…」


俺が友人の名前を言おうとした途端、再びスマホが鳴り、姉は観念したようにバッグを手に取って玄関へ向かっていた。

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