第2話

「″不倫現場をスクープされた山技議員が、本日午後に記者会見を行った模様です″」


近年、大々的に報じられるようになった有名人の不倫。

俺は、そのニュースを姉のあずさと実家のリビングで観ていた。


「最近、国会議員の不倫も多いよなぁ。姉さんちは大丈夫?」


姉の夫は、弁護士から市議会議員、そして2年前に県議会議員になった。


「うちの祐介ゆうすけさんは無いわよ。地方議員でいつも地元にいるし浮気は簡単にできないから」


姉は余裕のある返事をして、束の間の休息を弟の俺と過ごす。

議員の妻として華やかで多忙な日々を送っている反面、素で居られるのは実家だけらしい。


「でも、義兄さん、まだ30代だしそこそこイケメンだしモテる筈だよ、気を付けなよ」


「ハイハイ、おさむは人の事より自分を心配したらどうなの? 30過ぎて恋人もいない、小説は売れない、名士って言われてるお父さんの顔に泥塗らないようにね」


「今、たまたまいないだけ。小説だって新作のオファーきてるよ」


俺は、ムッとして姉に言い返す。確かに父親は、大地主で家業の造園も成功しているし、かつては町内会長もやっていた。

だからといって、息子の俺が同じ道を歩まきゃいけない事はない。


「今度はどんな話を書くの?」


姉が温くなったお茶を飲みながら聞いてきた。


「オファーがあったのは官能小説」


軽く噴き出す。


「官能? 理は青春か純愛モノしか書かないんでしょ?」


「そのつもりだったのに、そんな話がきた。担当の編集者が、″今、不倫の官能書いたら当たりますよ!″ って」


「で。書くの?」


弟がエロ小説を書くことがおかしいらしく、姉が、上品な口元を震わせて笑いをこらえている。


「いや、俺、エロいシーン書こうと思ったら笑っちゃうんだよね」


「そうでしょうね」


「だから、″同じ泥沼でも、女に騙されて人生踏み外した男の物語を書きたい″ って押し通した」

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