付添婦の3ヶ月日記

白鷺(楓賢)

プロローグ

病室の窓から見える空は、今日もどこか遠い。入院生活は想像以上に孤独で、時間が止まっているかのような感覚に陥る。毎朝、医師や看護師がやって来て、決まりきった言葉を交わす。それが終われば、あとは静寂と時計の針の音が、ただ淡々と過ぎていくだけだった。


私は、長い間ここにいる。季節がいくつも巡り、街の騒がしさや日々の変化から切り離されてしまったような日常が続いている。家族も友人も、最初は頻繁に顔を見せてくれたが、今ではその足も遠のいた。誰もが自分の生活に戻っていくのは当然のことだろうと理解している。けれど、心の中の小さな穴は次第に大きくなり、埋められないまま私の中で広がっていく。


そんなある日、彼女がやって来た。付添婦の美穂さん。いつも笑顔で病室に入り、何気ない会話をしながら私の身の回りの世話をする。最初は、彼女の親しげな態度に戸惑い、心を閉ざしていた。でも、毎日同じ時間に顔を出し、優しい言葉をかけてくれるうちに、彼女の存在が少しずつ心の隙間を埋めていくのを感じ始めた。


あの日、美穂さんが差し出した小さな花束。あれが、私の長い入院生活の中で、最初の小さな変化だったのかもしれない。孤独な日々に差し込んだ一筋の光。その光が、これからの3ヶ月間、私の世界をどのように変えていくのか――それは、まだ誰も知らない。

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