第60話

残念ながら、彼女の家の前に着いてしまった。


桜井と別れたあと

ずっと繋いでいた手を離すのが

名残惜しくて仕方なかった。


かと言って

彼女のアパートの前だから

ご近所のことを考えたら

何もできなくて

悔しかった…


年下だから

とか

年上だからとか

恋愛に於いて

そんなに気にしたことはなかったけれど


こんな時、年上男子なら

どうするのかな…

と、少し疑問が湧いた。


いや、前言撤回。

僕は10歳近く離れている

彼女を前にして

年下ということを

随分気にしている。


年下だから

がっつきすぎないようにとか

年下だから

舐められないようにとか


大事なのは

年齢じゃないはずなのに

相手をどれだけ

大事に大切に思うかなのに…


帰したくないです


なんて言えたらいいけれど

言えるはずもない…


まだ、ちゃんと付き合っているわけでは

ないのだから…


それに

さっきの、


私もです、おなじですね


の言葉の意味。


僕の都合のいいように解釈させてもらってもいいのか。



それとも

ちゃんと意思の確認をしたほうがいいのだろうか…


お昼のキスみたいな勢いは

今の僕にはなかった。


それでも…

何か僕なりの気持ちを

表してから、この場を去りたい。



僕は、彼女の頭を僕のほうに向けて

そのおでこに、そっとキスをした。



そして

ちょっと余裕そうな感じで微笑んで


「おやすみなさい、また明日」


と言った。

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