第58話

電車に乗ってる間も

僕は彼女と手を繋いだままだった。


もう

いっそのこと

僕の家に連れ去ってしまいたい


そう思うくらいなのに

無常にも電車は

彼女の家の近くの駅に着いた。


「家まで送らせてください」


「ありがとうございます」


さっきと違って

彼女はすんなり僕の提案を受け入れてくれた。


吉田さんも、また僕と同じように

少しでも長く一緒にいたいと思ってくれているのだろうか。


何もしなくてもいい

何もできなくてもいいから

ただただ一緒に今日は

この月を彼女と眺めていたいと

思う僕は、臆病者なのだろうか…


でも、勢いじゃなく

その場の雰囲気に流されるんじゃなく

僕は、その時やっと

逸る気持ちが収まって

彼女とただただ

同じ時間を共に刻んでいたいと

なんとなく思っていた。


抱きしめて

大切に大事にしたい


そう思ってしまった。


彼女のほうが

僕よりも

ずいぶん年上なのに

守ってあげたいと

思った。


不思議だな…


誰かのことを

こんなに大切に

大事にしたいと思えるなんて


運命以上のものを

感じてしまう


愛するって

こういうことなんだろうか…。

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