第3話

東京のハローワークは

とにかく広かったです。

場所はちょっと分かりづらかったですが。

それは、私が地元の人間ではないからかも

しれないのですが。


ハローワークは、混んでいて

人人人だらけ…

お昼くらいに行ったのに

3時くらいまで名前を呼ばれませんでした。


ようやく私の名前が呼ばれ

窓口に行くと

年配の男性がそこに座っていました。


「今日は、職業相談でいいですか?」


「あ、はい。」


「あー、地元、ここじゃないんだ?」


「そうなんですよ、こっちに来たら

仕事があるかなって期待して来てみたんです」


「そうなんだ、実は私も、吉田さんと

同じ地元なんですよ」


男性は、嬉しそうにニコニコ笑いながら

私に話しかけた。


「え?そうなんですか?

なんか嬉しいです!こっちにきたけれど

地元に居た友人とは、連絡とるにも

仕事が決まってなくて、連絡がとれずにいたんで」


「分かる分かる。そうだよね。

退職して3か月なんだねー」


男性は、私の雇用保険受給者証を見ながら

色々と想像しているようでした。


「はい、向こうで3か月近く粘っても

仕事が見つからなかったので、思い切って

東京に来たんですけど、なかなか仕事無いですよねー」


「そうだねー。オリンピックの開催も延期されたし

コロナウィルスの関係で職を失う人も増えてるからね。」


「やっぱりそうなんですね。」


そんな世間話をしながら、男性は私に求人票を見せてくれた。


「いまのところ、紹介できそうな仕事は、これくらいしか無くて…」


3枚くらいの求人票を私に見せた。


「清掃かー」


「あー、それは最終手段ね、一番紹介したいのは

この仕事、事務職がいいんだよね?」


「そうですね、介護や、清掃は、やったこと無いし」


「そうかそうか、じゃあ、この仕事は、どうかな?」


男性が、見せた求人票の住所は、ここからさほど遠くはない場所だった。


「わー、めちゃめちゃ近いじゃないですか!

しかも、社保つきで、ボーナスも出るんですね!」


「そうなんだよ、どう?受けてみる?」


「あ、はい!よろしくお願いします!」


私がそう言ったあと、男性は、その会社に電話をした。


「え?今日ですか?

あ、はい、はい…確かに、そう書いてありますけど。

……30代、女性の方です。分かりました」


え、何?まさか今日の今日で面接へ?

履歴書、書かなきゃならないの?

どうしよう…写真とか全然準備してないし…

面倒だな…。


面接が決まると嬉しい反面、履歴書のことを考えると

ものぐさな私は、手を抜きたい気持ちになってしまいます。


「吉田さん、先方が、今日、面接に来て欲しいそうなんだけど

行けるかな?」


「はい」


まさか、先方が要望しているのに、嫌とは言えないですよね。

作り笑いをしながら、私は返事をしました。


「もしもし、今日、面接行けるそうです。

はい…はい…分かりました。じゃあ紹介状作って渡しますね」


男性は受話器を置いた。


「あの、この辺に100円ショップとかあります?」


「え?どうして?」


「履歴書の用意してなくて、買って書かないと…」


「あー、履歴書は、要らないから大丈夫」


そう言って男性が指差した部分には

確かに履歴書不要とありました。


「えー!こんな会社あるんですか?

私、ハローワークで、仕事を何度か紹介してもらったけれど

履歴書不要なんて会社初めてです!」


「ま、これもご縁だと思って、受けてみたら?」


「はい、分かりました、なんか、ありがとうございます!

まさか、東京で初ハローワークの日に

仕事を紹介してもらって、当日、面接受けるとは

思いもしませんでした」


「頑張ってね」


男性は、そう言って私に、プリンターから出てきた

紹介状を手渡すのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る