第57話

思わず、綺麗だなぁと見とれていると、彼が、私の視線に気づき立ち上がりました。


「今日の菜月は、ちょっと色っぽいな」


そう云って、また私の方に手を差し出したので、私はその手を掴みました。



「なんか、色っぽいとか言われたのはじめたかも…ちょっと照れる」


そう云って、私は、顔をうつむかせました。


「だって、風呂上がりのお前見るのは、初めてだし、なんかほんのりピンク色に染まってて…あーなんか、俺ダメだな」


そう云いながら、彼は、足を早めました。


「ダメって何が?」


「ちょっと、お前鈍感すぎ」


「鈍感かなぁ…」


「めっちゃ、鈍感。だけど、そういうのも全部ひっくるめて、俺は、お前が好きだけどな」


鈍感と言われたことに、ちょっとだけ胸がチクリと痛んだんですけど、


お前


って二度も言われて、私の気持ちは舞い上がるばかりでした。


多分、すぐこうやって自分の世界に入っちゃうからいけないんでしょうね。


それに気付くのは、クリスマスイブになってからなんですけどね…


って、私、同じこと二回も言ってるな。



彼も、この日は、ダメだなって何度も言ってました。

自信家の彼が、ダメだなんて言うなんて、本当に珍しいです。


…はい、そう思ってる時点で、私ってやっぱり、鈍感なんですよね。



温泉から上がり、部屋に戻ると、もう食事の用意がされていました。


彼も私も好き嫌いが少ない方なんですけど、さすがに量が多すぎて食べ切れなかったです。


そのあと、再び大浴場へ。



そして、戻ってくると、蒲団が二つ並んでいました。



「なんだか夫婦っぽいなぁ」


と、私が、何気なく呟くと


「バカ、菜月は俺が渡した、指輪の意味分かってるんだよな?」


「うん、エンゲージリングでしょ?」


「そう、で、俺は、お前のご両親にも、結婚する宣言したんだからな」


「うん、分かってるよ」


「だったら、夫婦っぽいとか言うな」


そう云って、彼は、私を抱きしめました。


「キャ…」


「もう、俺たちは、夫婦も同然なの、分かった?」


「う、うん」


「菜月、狼は怖いか?」


「一樹は、狼なんかじゃないよ」


私は、そう云って、ぎゅっと彼の背中に手をまわしました。

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