第1話

〈るいside〉

時は4月。高校2年生。

わたくしこと佐藤瑠衣は少し困った状況に置かれている。付き合っている大木晴人とクラスが一緒になった挙句、席が前後になってしまったのだ。


「お」と「さ」の間になんで1人もいないのよ!


晴人とは中学校からの仲で、軽口をたたける相手ぐらいにしか思ってなかったのだが、高校に入って身長も伸び、3学期あたりから割とイケメンだという噂がながれはじめた。なんだかそのあたりから胃がムカムカするようになった。クラスも違い、なんとなく挨拶を交わすぐらいしか話していなかった中、すごい美少女と付き合ったと噂で聞いた時はご飯が喉を通らなくなった。しかし帰り道に偶然会ったとき、その噂を軽口を叩くように聞いてみると


「それ、デマなんだけど」

と怒気を帯びた声の本人から聞き、ホッとしたのを覚えている。

というか…ホッってなんだ…?

自分がヤキモチを妬いていたことに気づいたのも束の間、

「俺、お前の方が好きなんだけど」

と、とんでもないことを口走られた。


「えっなに、冗談?大丈夫?」

「冗談で言わねーよ」

「大丈夫?熱あるんじゃない」

「ねーよ」


というやりとりののち、あまりに信じられなくてポカーンとしていると、


「別にお前が勘違いしてるから言っただけだし…。ほかに好きな奴いるなら答えなくていいから…」


と頭をグシャグシャと掻きながら顔を赤らめて言われた。だが、その言葉の5秒後には腕をつかまれ、顔がグイッと近づいていた。


「いややっぱ、ほかに好きな人がいるなら教えて」


と、これまでに見たことのない真剣な顔で言われた。あまりにも近くてアホ面を晒しているのではないかと心配になる。


「あ、いや、えと…。好きな人は、はる、と、なんだけど…あは…」


なにが「あは」なのか。絶賛混乱中なのに、さらに自分を混乱に陥れるような言葉が出てくる。私は晴人が好きなのか。っていうか今言ってしまったような…。


「まじで?」


晴人の目が大きく見開かれる。そこから見たこともないくしゃりとした子供っぽい笑顔を浮かべ、

「びびったー!俺だけ好きだったらどうしようかと思った!俺、中学校ん時からずっと好きだったからほかに好きな奴いたら耐えられなかったわ」


な、なにを言い出すのかこの人は。まじかーという衝撃と、あまりにも突然すぎる告白に心臓がバクバク言っている。ってかもうこの握っている腕をはなしてくれないか。体温がどれだけ上昇しているかバレてしまう。


「じゃあ俺ら今日からカレカノなんだな」

満面の笑みで至近距離で言ってくる彼の前で、とりあえずうなずく。まったく思考回路が追いついていないが、とりあえず自分の恋は叶ったらしい。らしいが…


付き合うという行為は、結構な恥ずかしさを自分に与え、自分が自分でなくなることをまだ私は知らなかった。


この話が2週間前のこと。そして話は冒頭に戻る。

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