第53話

「まったく!どこ行ってたの!」


さっきよりも怒りが強いお母さんのお小言をしっかり頂戴し、家族席に戻った。


チラリと横を見ると、あきちゃん側の家族席に李人さんがいた。


ーあっ…


目が合ってしまい、バッと視線を逸らした。


ー何で?別に恥ずかしいことじゃないのに…。


久しぶりにこんなに心が揺れる。


まるであきちゃんに片想いをしていた時みたいに。


「それでは、新婦より家族に向けたメッセージです」


ライトが暗くなり、藍美あいみだけが照らされた。


我が姉ながら、本当に綺麗だなと思う。


「お父さん、お母さん…」


藍美が言葉を紡ぐ。

だんだんと涙ぐむ声に、私の両親も泣いていた。


父は泣かないように、頑張っていたけれどこらえられず、母はハンカチで目を抑えていた。


涙を流す藍美に、あきちゃんは寄り添った。


「今まで育ててくれて、本当にありがとう。大好きです」


そんな藍美の言葉に、会場の誰もが拍手を送り、涙をする人もいた。


「そして、愛美」


身体が震えた。

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