第34話

いつもなら逃げるはずだった。


けれど、彼の色素の薄い目に囚われて、逃げられなかった。


触れられた時、ビクッとした。


右の頬が、冷たい。


彼の手にはらりと私の後毛が落ちた。


「愛美は、恋をしたことある?」


「あるよ」


もう、終わってしまったけど。

もう、終わらせないといけないけど。


「今は?」


「…今も、してるの…」


「そう、なんだ…」


伏せ目がちになる彼。

まつ毛が長い。


本当にかっこよくて、あきちゃんと瓜二つ。


あきちゃんに触れられたら、こんな感じなのかな…、そんなことを考えていた。


「じゃあ…さ」

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