大切な君へ

第60話

2日目はそれほど暑くならず、呼び込みや宣伝などに人数を分けた。


みんな休憩に入ってもすぐにクラスに戻り、それぞれの役割を全うした。


なんとか2日目も1位をキープしたが、

2位との差はもうないに等しかった。


「はぁ…」


看板を塗り直しながらため息をつく委員長に声をかける。


もう6時。


先生からは帰るように言われ、人もまばらだった。


玲唯は疲れたのかいつのまにかいなくなっていた。


「委員長、大丈夫?」


「楓ちゃん…!うん、ありがと…1位なんてとれると思ってなかったんだけど、いざ実現しそうになると、色々怖い」


優秀でみんなに慕われている委員長でも弱気になるのだと思う。


当然か、彼女も

【委員長】という肩書きを背負っているのだから。


「委員長。ちょっと髪いじっていい?」


「え?」


自分の付けているリボンのゴムをはずし、委員長の髪につける。


「え、なに?」


「委員長に似合うと思って」


スマホの画面を暗くして見せる。


私がしていたように、委員長の黒髪をポニーテールにした。


「下ろしてるより、作業しやすいはずだよ」


「でも、これ楓ちゃんのものでしょ?」


「私はまだ家に色々あるから」


「でも…」


「私、そろそろ帰るね」


私にはもういらない。


もう褒めてくれる人はいないから。


明日はゆるく巻いて終わりでいい。


「楓ちゃん!」


帰ろうとすると、委員長に声をかけられた。


「ありがとう!明日、頑張ろうね!」


委員長のポニーテールが揺れる。


「うん、また明日」


そう言って教室を出た。

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