第55話

「あれ?玲唯?」


後ろから男の人の声が聞こえる。


「え?春樹はるき先輩!」


「よ、久しぶり」


ーこの人…。


爽やかに整えられた茶髪に、日焼けしていない白めの肌。

高身長でスラリとした、でもしっかりと鍛えているような身体。


ー間違いない…。


「春樹?」


ひょこっと先輩の後ろから顔を出したのは詩織ちゃん。


そう、玲唯の先輩で元キャプテン。


詩織ちゃんの彼氏だ。


「あ、玲唯!びっくりしたーこんなとこで会うなんて」


玲唯の顔が一瞬で引き攣った。


「せ、先輩は何で…?今関西の大学に行ってませんでした?」


「詩織に言われて来たんだよ。最初は部活あったけど、詩織がどうしてもって言うから3日間こっちにいるつもり」


「春樹、それ私が悪いみたいじゃない」


「そうは言ってないよ」


目の前で繰り広げられる幸せそうなカップルの会話。


玲唯の顔がますます引き攣っていくのがわかる。


「ってかお前にも彼女いたんだな」


「違います」


「あれ?そうなの?」


きょとんとする先輩に対して、強い否定の言葉。


ーチガイマスー


そんな強いナイフのような言葉は私に刺さった。


やっぱり、さっきの褒めてないじゃん。


「じゃあ文化祭で告白する子でもできたか?」


「もう春樹!デリカシーない!ごめんね楓ちゃん。私たちここで離れるね」


「あ、うん…」


「ほら春樹。他の部員に挨拶するんでしょ!いこ!」


「あー忘れてた。でももう終わりかけだから明日にしようかな」


「呑気なこと言わない!」


意外とこのカップルは詩織ちゃんが主導権を握っているようだ。

ヘイヘイと言いながら2人は踵を返そうとした。


なのに。


「先輩」


「ん?」


玲唯が春樹先輩を呼び止めた。

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