第18話

卒業式ー。


在校生は勝手に登校して、お世話になった先輩に挨拶をしてもいいことになっている。


号泣する詩織ちゃんの前には、前のバスケ部のキャプテンがいた。


そして、私の隣には。


困ったような、辛いような、そんな顔をする玲唯がいた。


「泣くなって」


わんわんと泣く詩織ちゃんを、元キャプテンはなだめていた。


「卒業してほしくないよ」


と泣く詩織ちゃんを困ったような顔で見守っていた。


相思相愛で、部でも公認なのだろう。


誰1人揶揄う人はおらず、2人の世界が作られていた。


不意に玲唯の身体が揺れた。


それは、玲唯がこぶしを握りしめたからだった。


「玲唯」


「ん?」


玲唯はこっちを見ない。

目線は詩織ちゃんと元キャプテンのところに向かっている。


「キャプテンに挨拶、行かないの?」


なんて、意地悪な問いかけ。


玲唯の気持ちを知っているのに、それでも淡い期待を抱いて聞いた。


ー彼女との時間大切だろー


ー彼女とイチャイチャしすぎだろー


いつもみたいに軽く答えて欲しかった。


「行ったら、邪魔してしまうから」


「え?」


「手を引っ張りそうになるよな」


玲唯が私に聞こえるか聞こえないかの声量で言った。


「誰の…」


手を?


「俺先に他の先輩に挨拶してくるわ!楓、先に帰ってていいから」


そう言ってブレザーを翻し、バスケ部の元へと消えていった。


ー手を引っ張りそうになるよなー


答えは明白だった。


玲唯は、手を伸ばしたかったんだ。


その手を自分のものにしたかったんだ。


詩織ちゃんを先輩のところから奪って、

自分のものに、


したかったんだ。

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