忘失

@yanagisi

自己紹介がうまくいかない


「それでね!少しの間、この子のことを見てほしいのよ!」


母さんに、『大事な話があるから、家に来てほしい』と言われて

仕事終わりに急いで実家へいくと知らない子供がいた。

黒髪のロングヘアの男の子。


「えーっと…、俺が?」

簡単に説明すると、両親が里親として立候補し保護することになった子供と一緒に

生活をしてほしい。ということだ。

「うん。詳しくは私たちも知らないのだけれどこの子、会話もできないし文字を書くことも読むこともできないみたい。」

「はぁ…!?」

この現代にそんな子がいるのか?見た感じだと10代半ばくらいに見えるのだが…

いままでどうやって生きてきたのか?

(もしかして、虐待とか事件に巻き込まれたりした子供なのか…?)

本人の前で口にするのは、少し気が引けて聞けないことがうまく聞けない。

その本人はというと、背筋が伸びていて凛としている。

髪の毛は丁寧に手入れされているのが男の俺でもわかるような艶もある。

虐待を受けていたようにはみえないが、事件などに巻き込まれたショックなどからなのか?

いろいろ考えても答えは出てくるはずもなく。

「そんな状況だから、孝之に一般的な教養を身につけさせてあげてほしいの」

あぁ、なるほど。だからか…。

「いや、俺は数学の教師だぞ。そんな幼稚園児に教えるようなことはわからないんだけど…。」

「それでもお母さんとお父さんよりも年は近いし、そっちのほうがこの子もいいんじゃないかしらって…」

両親の考えは一理ある。心理学的にも自身に近しい相手のほうが警戒心は薄い。

俺も、もしかしたらこのまま自分の弟になるかもしれない相手を放っておけない。

…というか、純粋な興味がある。


「この子の名前は?」

俺が聞くと母さんは、肩が少し下がった

「名前もわからないのよ…いつか聞けたらいいんだけど、それまではお父さんと決めて『純』って呼ぶことにしたのよ」

目を合わせないように下を向きながら説明してくれた。

「…純、よろしくな」

俺が手を出すと、純は両手で俺の手をつかんでにこっとした。

「ーーーーーーーーーーー」

ちいさく声が聞こえたが、日本語でも英語でもなかった。


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