忘失

@yanagisi

第1話


急に朝が来た。

それだけしか記憶はなかった。



prrrr......

まだ日が昇り切っていない時間にスマホが鳴った。

この時間に電話がくるのは大体、母さんしかいないだろう。

だから僕は起きるのをやめた。それでも、音は鳴りやまなかった。

「~あぁ!もう!!!」

いらいらしながらスマホを手に取ってみると、やっぱり予想通り。

「もしもし?母さん、何時だと思ってるの…いつもなんで朝早くしか電話してこないの?」

「あ!やっとでたぁ~おはよう~この時間じゃないとあんた電話でないじゃない!」

確かにいつも用事があるときは朝にしか連絡しないけど…、そろそそLINEを覚えくれないかな…。

「用事はなんだったの?」

いつも大した用事じゃないから今回も数分で終わるだろうと、僕はまた布団の中にもぐりながら話しかけた。

「急で申し訳ないんだけど、今日か明日うちに帰ってこれないかしら?」

大した用事ではなかったが、こんなことは初めてだ。

「いや…今日はさすがに厳しいんだけど明日なら…なにかあった?」

僕は今年で32歳になる。まだまだ親は元気なもんだと思っていたが、もしかして…。

身体がぞわっとする感覚がした。

「じゃあ明日でいいから仕事終わり遅くなってもうちにきてくれる?詳しい話はうちにきてからするから」

この嫌な感覚を持ち続けないといけないのか…?

「うーん、仕事調節できるかもしれないから今夜また電話するよ」

「わかった~じゃあ、仕事頑張ってね~」

話し声とかはいつも通りだし、なんなら機嫌もいいような気がする。

僕の予想とは違うのか?どちらにしろ心配事はないほうがいい。

「とりあえず、出勤の準備するかぁ」

一人で住んでるこの部屋で、わざと声を出して動き出す。

身体はまだぞわっとした感覚が残ったままだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る