第55話

思い出したのは、お父さんに義理の母と弟を紹介された日。

特に弟の方は、よく知った顔で、昨日も見たばかりだった。



『ごめん、雄大』

『…なんで巡が謝るの?』

『俺の両親が離婚なんてしなければ、雄大を困らせることはなかった』

申し訳無さそうに言う巡に、庇護欲が湧いた気がした。

衝動に任せて巡を抱きしめて、ハッとした。

ビクッと揺れた巡の身体。

慣れないことをしてしまったと、直ぐに離れた。

『そんなことないよ、巡。確かにびっくりはしたけど、大丈夫。

 これから僕たちは兄弟だけど、友達であることは変わらないよ、絶対に』

笑みを向けると、返ってくるのは怯えた瞳で、僕は一瞬困った。

『雄大…』

『巡の家が大変だったのは僕も知ってる。

 これからは兄としてでも、友達としてでも良いから巡を守らせてね』

『……じゃあ、俺も弟として、友達として雄大を俺なりに守るよ』

『約束だね、巡。

 これからは互いの守り合って行こうね』

『うん、約束だ』



絡み合った小指の温もり。

それに嬉しくなったことを忘れいていた。

「…たしかに、僕は阿呆だね」

「……何か思い出せたなら良かった。早いとこ巡と和解しなよ。

 じゃないとアレのご機嫌取りはいつまでも俺だ」

「えぇ〜、そこはこれからもお願いしたいなぁ」

「断る」

「そこをなんとか!!」

「俺が首を縦に振る未来は訪れない。

 お前でなんとかしろ、この阿呆雄大が」

「っ…!」

初めて、雫くんが僕の名前を呼んでくれた。

一瞬のことで理解が追いつかなかったけど、確かに。

「っもう!雫くんはツンデレだなぁ!」

「よし、もう一回脳天殴られたいって?」

「それは勘弁して。雫くんの平手意外に痛い」

「軟弱者」

「えへ、じゃあ守って」

「やだ」

俺を邪険に扱うふりをして、ちゃんと話し相手になってくれる。

巡が懐くもの納得してしまった。

「ねぇ、雫くん。

 ありがとうね、僕のことも、巡のことも」

「なんのこと?怪奇的な質問投げかけられたことしか覚えてない」

ねぇ、斎。

やっぱり、彼は副会長に相応しいよ。

恭の後任として、僕も認めた。

あとは、斎だけだよ。

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