彼女にフラれた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達までいるんだろう

遊。

プロローグ バースデープレゼントは絶望で

女心と秋の空と、言う言葉を聞いた言葉を聞いた事はあるだろうか。


移ろいやすい秋の空模様のように、女心もまた変わりやすいものだという意味のことわざだが、俺こと三澄悠太は、それを今まさに実感していた。


と、言っても今は別に秋じゃない。


まだまだ残暑と言うには暑すぎる八月の後半。


そんな季節感なんて気にするはずもなく、現実はいつだって突然突き付けられる。


「あなたのこと、もう恋愛として好きじゃないの。


だからもう終わりにしようよ。」


帰り道のバス停での待ち時間。


突然さっきまで一緒に時間を過ごしていた彼女から送られてきた一通のメール。


無駄なく要件だけが書かれた文章は見間違えなど出来るはずもなく嫌でも俺に現実を突き付けた。


「もう、好きじゃない、か。」


なんだかんだ彼女、もう元カノな訳だが……。


瀬川宏美とは趣味が合うのもあって一緒に居るのは楽しかった。


その内、お互いに惹かれあって恋人同士になった筈だった。


でも、今は違う。


いつの間にか、なんの前触れも無く、彼女の心は変わってしまっていたのだ。


ショックだった。


この関係が終わってしまう事が寂しく思えた。


でも何処かでそれが腑に落ちてる自分もいた。


「俺、本当に彼女の事が好きだったのかな。」


確かに一緒に居て、幸せだと思えた。


彼女の笑顔にも何気ない仕草にも癒されていたし、彼女と過ごした時間は確かに居心地のいいものだった。


でもそれは本当に彼女の事が好きだったからなのだろうか。


そんな感情を抱くだけなら、友達とだって出来たのではないか。


そんな事を考えてしまう。


そして何よりショックなのは彼女と別れる事になったからじゃなかったのだ。



まぁ事実としてそれが理由なのは間違いないのだが。


「また、か。」


こうして付き合った相手に別れを告げられたのは一度じゃない。


それも、俺と別れた彼女たちはもれなくすぐに彼氏を作って俺の人生からフェードアウトしていった。


「キッついなぁ……。」


そんな事を幾度となく繰り返していく内に、気付けば俺はもう35歳になっていた。


その誕生日にまた俺は失恋し、また独り身になった。


奇しくも人生節目を迎える今年の誕生日は、こんな形で祝われ、いや……貶められる事となった。


本当に我ながら……


「笑えない……な。」


何が間違っていたかなんて分からない。


でもそもそも最初からこうなる事が決まっていたからこうなったんだ。


積み重ねてきた時間も想いも、結局その未来にたどり着くための過程でしかない。


「ほんと、惨めだよな。」


恋によって受けた傷は恋でしか直せないなんて人は言う。


なんて残酷な言葉だろう。


確かにそれを上塗り出来る程の想いを、時間を刻めるのなら、今起きた出来事なんてすぐに忘れてしまえるのだろう。


でもそれだってどうなるのか分からない。


同じような未来に向かう過程でしかないのかもしれない。


そんな事をこれから何度繰り返すのだろう。


どうしたって必要なのは時間で、その都度相手を探して、また時間をかけて、やっと恋人になれたとして。


そこからまた一年、また一年。


ついさっきまでのように彼女なら大丈夫だと根拠なんかないのに思えるようになって。


そんな過程をまた繰り返すのか?


この年で?


次が上手くいくかどうかも、そもそも次があるかどうかも分からないのに?


まだまだ時間があると信じて疑わなかった学生時代とは違う。


世間体で言えばもう結婚して子供だっていてもおかしくない年代だ。


それなのに俺は今、そのスタートラインにすら立てないでいる。


「なんか、もう疲れたな。」


全てがどうでも良く思えてきた。


そんな風に、人生はいつも思い通りにいかない。


そんなのこれまでの人生で嫌になるほど思い知らされてきた。


「でもここまで思い通りにいかないなんてありかよ……。」


そりゃ、俺がハイスペック男子なら。


例えばアイドルみたいなイケメンで、頭が良くて、高収入で、オマケに女心を理解出来るようなモテ男だったならさっさと次に行けただろうし、そもそもフラれてすらないだろう。


でも残念ながら俺はそうじゃない。


学歴だって大した事ないし、収入だってたかが知れてる。


顔だって普通だし、なんなら親父の遺伝で禿げ始めてるし……。


「こんなんで次とか無理だろ……。」


ボヤいた所で現実は変わらない。


どうしてこうなったのか。


こんな筈じゃなかったのに。


あの時こうしていたら、こうなってればもしかしたら。


そんな思いばかりが頭の中を駆け回る。


だからかもしれない。


俺は完全に油断していた。


「え?」


背中に軽い衝撃。


同時に目の前に迫ってくるトラック。


「あぁ、本当に最悪な誕生日だ。」


そう言ってすぐに、俺の意識は消し飛んだ。











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