第5話 秋元 武人
2か月ぐらい経っただろうか?
彩は、久し振りに自分の家へと戻ってきた。
格安のマンガ喫茶やビジネスホテルを転々としていた。その間チョコチョコと、
換気のためや着替えを取りには顔を出していたが
もと彼の秋元 武人との距離を取りたかった‥から。
「その社内恋愛の男って、一回りも年上の結婚指輪をしている元イケメンの中年男?」翔太の言った言葉を思い出していた。
(訂正すると、イケメンの結婚指輪をしていない年下の男なんだけどね。
私ってホントッにバカだわ。自分だけが知らなかったなんて‥彼との結婚を夢見ていたなんて)
武人には別れのメールを送り、それからはひたすら彼を避け続けていた。
そしてこれまで何回も断り続けていた、孝子おばちゃんの超優良物件に乗っかって翔太とのお見合いをしていた。
彼とは、この先どうなるか分からない。最初は嫌な奴だと思ったけれど、孝子おばちゃんのおかげもあって電話では普通に話が進んだ。
それに、誰かを犠牲にして成り立つ恋愛じゃないなら‥それに越したことはない。
『ドンドン。ドンドン』
「居るんだろう?俺だよ武人だ‥‥話がしたいんだ、このままじゃあ納得できないから」
「‥‥武人⁈ もう、私の方は何も話すことはないわ」うすっべらい扉越しに返事をする。
「結婚してたことが気にくわないんだろう?」
(気にくわないって、当たり前でしょう。それにそんな話を外でしないでよ)
「このまま、ここで話をつづけてもいいけど」私の考えを見透かしたように言う。
『ガチャ』何も言わずに扉を開ける。
「もう、何をいっても無駄よ」
「俺たち夫婦は‥仮面夫婦みたいなものなんだ。彼女には結婚前からつきあっている彼氏がいる。僕達には愛はないし、もちろん夫婦生活は1度もない。だから指輪で縛る必要性もなかった」彼は、狭い玄関の土間に立ったままだった。
「だったら、何で結婚したのよ」
「恋愛とか面倒くさかったから、こういう割り切った結婚は楽だと思ったんだ。でも‥君と出会ってから、俺は変わっていったんだと思う」
「もう、もういい。その先は聞きたくないわ。あなたたち夫婦が割り切った結婚だったとしても。もっと前に言ってほしかった。そう、遅いのよ‥」
「何が遅いんだよ?ちっとも遅くないじゃないか。彼女とは離婚してもいいんだ。君と寄りを戻せるなら‥」
「何を勝手なこと言ってる訳。それに私、お見合いしたのよ。その人と上手くいきそうなの。だから、もう邪魔しないでくれない?」
「お見 合い?俺たちの3年間をなかったことにするって、嘘だろう⁈ それに、そんな出会ったばかりの男と結婚するって?会社も辞めて?」
「そうよ。私ね。今まで、恋愛も仕事も真面目にやりすぎたと思って…そのお見合いの彼は専業主婦でもいいって言ってくれているし」
「俺だって、君が望むなら家庭にいてほしい」
「今さら何かってなこといってるのよ。とにかく、もう無理なの。心は貴方から離れたのよ」
「そんな何か月かで、愛し合った3年間をあっさりなかったことにできるのかよ‥‥俺には、出来ないよ」
「‥‥出来るわよ。と、とにかくもう、ここには来ないで」
「また、1週間後に連絡する。それまで、もう一度考え直してくれないか」
「‥‥」
「それじゃあ、帰るわ」
彼の見慣れた後姿。
ドアを閉める音や階段を降りる音に耳をすませている自分がいた。
彼が車に乗り込むドアの音にやっと張り詰めた緊張がほどけて、そのままベットに潜り込んだ。。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます