第3話 翔太
「もしもし、翔太です」
「はい」
「彩さん。この間は言い過ぎました。本当にごめんなさい」
「はい。お気持ちはわかりました。ではこれで」と切ろうとすると
「待って。切らないで‥ください。もう少し話をしてくれませんか?」
「‥‥これから忙しいので」
「昼食食べていないんだったら、一緒に食べませんか?」
「ありえないでしょ」
「僕はあの時。あなたに、いろいろ言いながら自分自身にも同じような言葉を吐いていました。仕事にいきずまっていて‥今、休職中なんです」
「そう、私も仕事辞めるつもりだから。お互いに、別の人を紹介しなおしてもらうのがいいわね。二人ともニートじゃあ。話にならないでしょ」
「貯金は、あります。それに今の仕事は、子供の頃からの趣味から始めてプロになったんで辞めるつもりはありません」
「子供の頃からって…。プロになったのはいつ頃なの?アーチストって聞いていたけど」
「日本一を競うコンテストで中学生の頃に優勝したんです。それからボチボチと仕事が入ってきて」
「す、すごいわね。天才的な感性の持ち主だったってこと?」
「俺に興味が湧いてきた?」
「べ、別にそういうわけじゃあ」
『ギューグーグルグルグル』お腹の虫が鳴りだした。
(嫌だわ。恥ずかしい)
「あはは。腹の虫は正直だね。何が食べたい?」
「い、家に簡単に食べられるものがあるから、それを食べます。それでは」
「まっ、待って切らないで。孝子さんに言われたんだ。一押しの優良物件だって、雨の日も風の日も体調が悪い日も会社を休んだのを見たことがないって。その仕事を辞めなければならなかったなんて、本人が一番くやしい思いをしているに違いないって。そういう内面を見てあげてくれって言われたんだ。1か月でいいから付き合ってみ‥ませんか?」
(ふふふ。孝子おばちゃんは、私のことも優良物件って言ってたんだ。思えばそうよ。入社したての頃から要領の悪い私は、要領のいい同僚に負けないようにって我武者羅に仕事をしていたわ。体調を壊して早退はしても、次の日には出勤したし。そんながんばりを見守ってくれていたおばちゃんの言葉が嬉しかった)
「僕も、今まで仕事一筋で昼夜逆転の生活だっだ。仕事を休んでから徐々に朝方に生活を変えてきていて、仕事のかかわり以外では人と話すのも、孝子おばちゃんが久し振りだった。ましてや、若い女の人となんて‥‥」
『さっきから私、何やっているんだろう‥早く切っちゃえばいいのに‥』
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